Report Workshop|ひらのりょうによるワークショップ「みんなの絵を動かして、アニメーションをつくる 〜空想とリアルで遊んでみよう!」

Photo by Takaaki Asai
Photo by Takaaki Asai

2017年4月に東京都小平市にある二葉むさしが丘学園にて、映像作家ひらのりょうさんをゲストに迎えて、子ども向けのアニメーション制作ワークショップを開催しました。出来上がったアニメーションは、後日、二葉むさしが丘学園が主催する地域に開いたイベント「春のふたばフェス!」でも発表されました。二葉むさしが丘学園は、全国に約600施設ある児童養護施設の一つ。親の病気や不在ほかさまざまな理由で家庭で暮らすことが困難な、おおむね2歳から18歳の子どもたちが生活し、近隣の学校に通っています。施設では、家庭復帰への支援や、子どもたちが社会へ巣立っていくための取り組み、地域との繋がりの場作りなどをしています。今回のワークショップも、施設が取り組む、外部団体との連携プロジェクトで実現した一つです。

アニメーションは自由。その自由な世界を想像してみよう!

2017年4月に東京都小平市にある二葉むさしが丘学園にて、映像作家ひらのりょうさんをゲストに迎えて、子ども向けのアニメーション制作ワークショップを開催しました。ポスターを見て集まってくれたのは、二葉むさしが丘学園で暮らす11人の小学生をはじめ、中学生と高校生。そして、自立支援コーディネーターの先生たちが参加しました。

ひらのさんは、日常に溢れたささやかなストーリーや、幻想的でどこか懐かしい風景に空想のキャラクターを登場させ、独自の世界観をアニメーションに投影するアーティストです。テレビ番組や映画に使われるアニメーションやミュージックビデオ、漫画などを手がけています。

ワークショップのはじめに、子どもも大人もみんなで自己紹介をしたあと、ひらのさんから、絵が動く仕組みを順序を追ってスクリーンに映し、身体の動きやアニメーションの手法をわかりやすく解説しました。 また、アニメーションを作る仕事やマンガを描くこと、これまで取り組んできたプロジェクトについても紹介し、完成する楽しさと同時に、孤独な闘いや表現を生み出すことの難しさを子どもたちに伝えました。

紹介が終わるとみんなで立ち上がり、自分の身体を使って動きの実験をしてみます。アニメーションの仕組みが少しわかったところで、いよいよワークショップの始まりです!

子どもたちそれぞれが考えたキャラクターとアニメーションのシーンを、絵の具や色鉛筆を使い、紙に自由に描きます。 スタッフは子どもたちの横で寄り添い、子どもたちからのアイディアを絵や動きで表現するサポートをしました。

恐竜や深海など、未知の世界に興味津々の男の子は、アイディアを描く用紙に、深海何万メートルの世界を想像して、潜水艦や深海の巨大な魚を描いていきました。恐竜はどの色にする?カラフルな色で塗る?と話しかけたスタッフに、「恐竜をばかにしてはいけないよ、尊敬しないとね。」と、恐竜への愛を感じさせるコメントも。

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深海の世界を、たくさんの図で解説しています  Photo by Takaaki Asai

上手いも下手もなく、それぞれ好きなように描いてもらうよう、なるべく子どもたちがやりたいように参加してもらうことを大切にしました。キャラクターを想像しやすいようなワークシートを用意したり、色ぬりが好きな子は色ぬりを楽しみながら、木や背景を描くことが好きな子は木や物を描いてもらうなど、楽しみながら創作できる時間を心がけました。 

どんな猫にしようかな? Photo by Takaaki Asai

どんな猫にしようかな? Photo by Takaaki Asai

アイディアを練りに練って、じっくりと進める子もいれば、どんどん手を進める子。いろんな子どもたちがそれぞれのペースで進めていきます。 動物が好きな女の子は、大好きな猫の絵を描いてくれました。猫の模様や色使いにこだわりが感じられました。 なかなか手が進まず恥ずかしそうにしていた男の子は、隣にいた大学生のスタッフと一緒に、アイディアを一つ一つ形にしていきました。

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じっくりと考えながら色を塗っていきます Photo by Takaaki Asai

赤い富士山と赤いリンゴを描いた男の子は、赤とピンクのグラデーションを使い分けながら、色を効果的に使い描くことを楽しんでいたようです。隣で寄り添っていたスタッフとも仲良くなり、できあがったアニメーションを見せるのをとても楽しみに頑張っていました。

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絵を描き終わったら、絵の具をよく乾かします Photo by Takaaki Asai

なんども消しては描いて、こだわりの構図を突き詰めていた女の子も。ひらのさんが用意した、ライトを当てて絵を透かして線を描きやすくするライトボックスを前に、ひらのさんに相談しながらラストスパートで一気に仕上げ、数人が並んだかけっこシーンを描いていました。一枚一枚を見比べながら、動きのシーンを細かく沢山描いてくれた子どももいて、滑らかな動きを出す方法を一生懸命考えていたようです。

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みんなの絵が動きました! Photo by Takaaki Asai

絵の具をよく乾かして、完成した子どもの絵から順に、ひらのさんがその場でスキャンしパソコンに取り込みます。そして、いよいよ子どもたちが描いたキャラクターがひとつひとつ、スクリーンの中の空間に現れ、動き出し、みんなの歓声が上がりました! 自分が描いた絵がスキャンされてアニメーションになることを最初はとても恥ずかしそうにしていた子もいましたが、他の子のアニメーションに並んで、自分が描いた絵が映ると、嬉しそうな表情を浮かべていました。

今回、ファシリテーターとして参加したのは、AITスタッフのほか、現代アートの学校MADの受講生、そして、施設からもほど近い、美術大学の学生の皆さんも駆けつけてくれました。


みんなでつくったアニメーションを発表しよう!

ワークショップで出来上がったアニメーションは、約1ヶ月後に二葉むさしが丘学園で行われた、地域に開いたイベント「春のふたばフェス!」でも上映され、地域の方々や子育て支援の団体の方や来場者と一緒に、子どもたちも鑑賞しました。イベントにはひらのりょうさんも参加し、再会した子どもたちとのひと時を楽しんでいました。

両親とも養護学校の先生だという、ひらのりょうさん。そんな環境もあってか、子どもたちの学びの分野には以前から関心も高いそう。今回のワークショップを終えて、コメントをしてくれました。

参加してくれた子どもたちみんなの人柄や表現が素晴らしく、充実した時間になりました!
                                ひらのりょうさん

二葉むさしが丘学園で自立支援コーディネーターとして日々子どもたちと関わる竹村 雅裕さんは、後日エイトで行われたイベントでも、子どもたちを取り巻く環境や支援について紹介しました。二葉むさしが丘学園では、普段から社会とのつながりを大切にしていて、子どもの生活の支援の一環として不定期でダンスや音楽を取り入れたクラスや、地域の農家への見学、被災地へのスタディーツアーなど課外活動も積極的に取り入れています。今回のワークショップを終えて、感想を教えて下さいました。

地域をはじめ多くの繋がりから得た経験の積み重ねが、子どもたちの日々の成長につながっていけばと思っています。すぐには言葉や効果には出なくても、子どもたちが何かを感じてくれたらと思います。

竹村 雅裕さん(二葉むさしが丘学園)

また、今回のワークショップの子どもたちが描いてくれた絵やパーツは、ひらのさんの絵と一緒に、後日プロジェクトの紹介ムービーの中でも紹介されています。


アニメーション:ひらのりょうと子どもたち/撮影:折笠貴、横山一郎/編集:藤井康之/
ロゴデザイン:KIGI/音楽:江本祐介

 dear Me / ディア ミー キミとボクと未来の私におくる、アートがつくる未知なる出会い from AIT on Vimeo.

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ワークショップのポスター

参加したスタッフの声(抜粋)

ワークショップ後、一緒に参加した友人と、美術と子どもについての話をしました。二人とも、他の人とはちょっと違った子どもの頃の経験があり、人に話してもなかなかわかってもらえない、という思いがありました。その中で、美術が唯一の表現となり、今でも美術は人との関わりのきっかけであったり、心の支えになっています。今回のワークショップをしたあと「あの子たちにもっと広い世界を見せてあげたい、何でもあり得る環境に1日でも連れて行きたい」と強く話し合いました。「世界には数え切れないほどの選択肢と愛があることを、美術を通して伝えたい。」そんな話もしていました。

AITインターン/武蔵野美術大学生

今回参加してくれた子どもたちは、公の場でものを作るというよりは、自分の表現に素直に絵を描いているんだなと感じました。子どもたちには、絵を描くことや美術は公の営みでありながら、完全に自己の言語を語れる場です。そのグレーな境界の中で、摂取したり吐き出したりしてバランスをとってほしいなと思いました。今回のような、施設で絵を描くというワークショップを組むことは絶対的に価値があると思います。そして、描いた絵がアニメーションとして動くだけでなく、一つの同じ空間で同居するというひらのりょうさんのわくわくする下地づくりに感動しました。

ファシリテーター/武蔵野美術大学生

最初は「絵を描くのは嫌い」と言いながらなかなか筆を取らなかったり、紙を前にしてもなかなか作業に入れず、恥ずかしそうにしていましたが、美術大学生の力を借りて、彼が描いてくれたサメの絵を見ながら自分で描いて見たり、「どんな色に塗る?」「サメをどうしたい?」と質問を投げかけることで、徐々にそれに応答しながら描き始めました。スクリーンに映し出されることをとても恥ずかしそうにしていましたが、自分が描いた絵が映ると、とても嬉しそうな表情を浮かべていました。最初から積極的に制作に向かうタイプではありませんが、周りの大人に励まされながら、慎重に、きちんと考えながら作業を進めていく様子が見えました。過日の発表会の時は一番前に座って、にこにこしながら出来上がったアニメーションを鑑賞していました。

ファシリテーター/AIT スタッフ

同じ絵を何枚も描いて動かすのは、大人でもなかなか難しい作業ですが、子どもたちは皆、それぞれのペースで根気よく制作に取り組んでいました。また、動く絵がどのように出来上がるかという過程をはじめに図で解説したのもわかりやすかったよう。ひらのりょうさんの性格も親しみやすさがあり、すぐに子どもたちとも和んでいる様子でした。

ファシリテーター/AIT スタッフ

絵を描くのは好き(得意)なようですが、じっくりと考えながら描いているのが印象的でした。最初は、なかなか思うように手が進んでいない様子で、いろいろと書いては消したり、頭の中にあるイメージから静かに制作を進めていました。ライトボックスの席では、ひらのりょうさんに相談したり、スタッフと一緒に、最後の方で一気に仕上げ、数人が並んだかけっこシーンを描いてくれました。複数のキャラクターたちが横並びで走る、なかなか難しい構図を、上手に考えて動きをつけていて、そのユニークな発想が素敵でした。

ファシリテーター/AIT スタッフ
プロフィール
  • ひらのりょう
    1988年、埼玉県春日部市生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。FOGHORN所属。産み出す作品は、ポップでディープでビザール。文化人類学やフォークロアからサブカルチャーまで、みずからの貪欲な触覚の導くままにモチーフを定め、作品化を続ける。WEB漫画トーチにて「ファンタスティックワールド」連載中。 
    twitter @hira_ryo / http://www.foghorn.jp/
    http://ryohirano.com
  • dear Me(ディア ミー)プロジェクトについて
    NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ [ AIT/ エイト] と日本財団による、子どもとアーティストが出会い、共に表現をする機会の創出や、アート/表現を通じた自由な学びと未知のものに出合う場づくりを通して社会を捉え直すプロジェクト。子どもの福祉施設のほか、さまざまな環境下にある子どもや若者、大人に向けた、対話型の鑑賞プログラムや国内外のアーティストによるワークショップを実施するほか、共に学ぶレクチャーやシンポジウム、イベントを企画。現代アートの多様な表現や対話をつうじて様々な価値観に触れ、世界のひろがりや他者とのつながりを発見するきっかけを創ります。