Report Learning lab 04|Death Cafeレポート スコットランドのアーティストコレクティブSoft Shadowsを迎えて

AITでは11月2日に、スコットランドからアーティストコレクティブ Soft Shadows を迎えて、「死」をテーマにお茶やケーキを囲んで話し合うサロンイベントDeath Cafe(デス・カフェ)を行いました。ゲストに、スコットランドからキュレーターのスーザン・クリスティーさん、アーティストのエマ・ドーブさんと小島なお美さんの3名が来日するタイミングで開催しました。

 

Death Cafeって?

「Death Cafe(デス・カフェ)」という言葉、聞きなれない方もいるのでは、と思いますが、一体どんなイベントなのでしょうか。

実はその名の通り、「死」をテーマに、紅茶やワイン、ナッツやケーキを囲んで参加者同士が自由に語り合うイベント。約15年前にスイスで始まったこういったイベントは、世界中で広がりを見せています。

元々は、スイスのヴィソワ村に住む社会学者バーナード・クレッタズさんが妻の死をきっかけに「死」にまつわる圧倒的な秘密主義を打破することを目的に始めた、死についてカジュアルに話す会が発端でした。そして、2004年にフランスとの国境に近い、スイスのヌーシャテルという街のレストランで開いた「Café Mortel」というイベントが話題を呼び、スイス各地で開かれるようになりました。

その後、クレッタズさんが開催した2010年のパリでのCafé Mortelがイギリスのメディアに取り上げられ、それに大変共感したイギリスの社会起業家ジョン・アンダーウッドさんがCafé Mortelをモデルに 2011年より自宅やカフェで Death Cafe と命名した活動を開始し、「deathcafe.com」のウェブサイトを開設しました。ウェブサイトでは、クレッタズさんについてや、Death Cafeを開くときのガイドラインなどが掲載され、興味のある人がDeath Cafeを開けるように情報をまとめました。その後Death Cafeは急速に広がり、これまでに世界各地61カ国にて、7236回開催されています(2018年11月現在)。2017年6月27日にジョン・アンダーウッドさんが急逝した後、志を継ぐ彼の家族によって、生前取り組んでいたDeath Cafeを含む活動が運営・継続されています。

 

近年、日本でも北海道旭川市の医師である阿部泰之さんにより2012年に始められ、医療や介護、福祉関係者を中心として各地で開催されている、ケアに携わるすべての人が語り合うための「ケア・カフェ」や、精神医療や障害福祉、教育の場で行われる哲学カフェなど、さまざまな語り合いの場が増えています。

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イベントフライヤー


「死」をタブーではなく、身近なものとして考える

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Photo by SOFTSHADOWS

今回のDeath Cafeはまさに哲学カフェや、90年代のアメリカで始まったワールド・カフェのように、気楽に自由に「死」について語り合うイベントでした。

ゲストにスーザン・クリスティーさん(キュレーター)とエマ・ドーブさん(アーティスト)、小島なお美さん(アーティスト)によるコレクティブ Soft Shadowsを迎え、AITのdear MeのイベントとしてDeath Cafeを開催しました。

メンバーの小島さんは、スコットランド北部にある、自然と人との共存や人と人との繋がり、日常に根ざしたスピリチュアリティー、目には見えない力の存在などを通じてより良い暮らしや生き方について学び合うラーニングセンターや、世界有数のエコ・ビレッジとしても注目されているコミュニティー「フィンドホーン」(The Findhorn Foundation)と活動をしているアーティスト。

そのフィンドホーンに、2018年に日本人アーティストの高川和也さんがリサーチで訪れ、そこでSoft Shadowsのメンバーに出会ったことと、AITキュレーターの堀内との繋がりがあり、今回の開催に至りました。

また、クリスティーさんとドーブさん、小島さんも、「死」の必然性や精神的なものに共通して関心を持ち、それぞれがリサーチや制作活動をする中で出会い、2017年よりコレクティブSoft Shadowsとして活動を開始したと言います。その3人のキュレーターとアーティストがファシリテーターとなり、スピリチュアルな側面から考える「死」という視点も交えて行われました。

参加したのは、関心を持って来場した大学生や社会人、アーティストや研究者など、職業も年齢も幅広いメンバー。マフィンやケーキ、温かいお茶やコーヒーを飲みながら、2つのテーブルに分かれてディスカッションが始まりました。

はじめにドーブさんよりイベントのルールとして、ここで聞いた個人的なストーリーはここだけにして、外では一切秘密にすること、参加しているみんなにとって安全と安心の場になるよう 説明がありました。
deathcafe_AIT_01「死」という共通のテーマがあるとはいえ、どこから話をしたら良いかと開始前は少し緊張していましたが、Soft Shadowsのメンバーのファシリテートのもと、自己紹介も兼ねてテーマについて自由に話し始めると緊張は一気にほぐれ、話題は色々なところに行きました。

家族や大切な友人など身近な人の死、宗教、儀式、文学や哲学、表現、悲しみの中での寄り添い方や、幼い子どもたちに「死」についてを伝えること、死後の世界、日本や世界の死刑制度についてなど多岐に渡る話題を皆で話し合い、最後はそれぞれのグループでどんな話があったか共有しました。

中には、悲しみの中のささやかな救いやユーモアについて、はたまた未来のAIと死についてや、フランスの思想家・哲学者ジョルジュ・バタイユの思想に触れる話題もあり、グループそれぞれに本当に幅広い話に広がりました。

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参加していた方から、普段の生活の中で「死」について話すことや、「死」にまつわる話題に触れることはタブーであるかのような感覚をどこかで持っていることが多く、これまではなかなかそうした話をするきっかけがなかったため、新鮮だったという意見もありました。

また、参加者の一人はご自身でもDeath Cafeを開催されていると言います。

イベントではドーブさんからこのDeath Cafeが開かれていたちょうど同じ日に、アメリカで5つ、イギリス、オーストラリア、スペイン、カナダ..そして日本!で行われていることを参加者に発表しました。それを聞いて、遠く離れた国の人たちのことを一気に身近に感じられました。今日この時にも、世界中のどこかで「死」について話し合うイベントが行われているかもしれません。

忙しい毎日に追われがちな現代こそ、時には「死」についてカジュアルに話したり、いずれは誰もが迎える人生の終わりについて考え始めてみることもいいのではないかと改めて気づかせてもらえました。

 テキスト: 藤井 理花

 

 

 

参加したスタッフの声

AITで主催したDeath Cafeが私たちにとって日本滞在のハイライトとなりました。そこで起きた会話は謙虚でありながら魅力のあるものでした。みなさんとても誠実な語り口でお話をされていました。伝統、信仰、変化、挑戦、これらから見えてくるスコットランドと日本の間での文化の違いの話が特に印象的でした。それぞれのお話や体験が違うにも関わらず、お互いのことが理解できたような気がしました。それは、とても人間味のある体験でした。私たちは幅広いトピックに触れました。子どもの死への理解、精神性、デジタル時代の死、更には死に直面すると人はいかに人生の重要性を知るかについても話は及びました。
また、火葬と埋葬によって、残された家族や親戚が抱く感情に違いがあることについても話し合いました。日本ではほとんどの人が火葬されますが、イギリスではだいたい75%が埋葬され、25%が火葬されます。参加者の一人が日本の慣習である骨上げについて説明してくれました。これは大きな箸を使って火葬後に故人の遺骨を拾って遺灰を骨壷に移す行為です。とても辛く、感情的な体験に聞こえましたが、死によって、「身体」から「遺灰」への移行を受け入れるのには重要なことのようでした。西洋社会では死の存在に直面することへの恐怖があり、こういった行為はタブーに感じられますが、生きている人にとってはとても重要で感情的に意味があるようでした。こういった事から西洋文化が学べる要素はたくさんありそうです。

エマ・ドーブさんと小島なお美さん(Table1)

私が参加したテーブルでは主に自殺が話題として上がり、みなさん、他の人たちと共有したい思いの強い、パーソナルな話を抱えていました。一番心に響いたのは参加者の誠実さです。初めて出会うグループであるにも関わらず、早い段階で難しい領域に入っていきました。テーブルを囲んだ参加者のみなさんは、率直で、それぞれの状況についてとてもオープンでした。ここでできた会話の数々はとても充実した内容で、それは予期していなかった体験でした。スコットランドに戻った後、友人の義理の兄弟が長く患った病気が原因で自分の命を絶ったことをきっかけに、このデスカフェでの会話を改めて思い出しました。小さな地方のコミュニティに住んでいると、人生の浮き沈みや死が身近に強く感じられ、それらは日々の暮らしの中に明白に存在します。プライベートな考えや感情を明らかにし、スコットランドと日本を結びつけているものは何かを考える機会を得ることができました。AITと一緒に実施したこのイベントに参加できてとても光栄です。

スーザン・クリスティーさん(Table 2)

長年職場を共にしているAITのスタッフ間でも、「死」というテーマでプライベートなエピソードを共有する機会はなかったので、あらためて身近な人々がどのように「死」に触れ、それを理解、あるいは受け入れようと努めているか知る良い時間になりました。
また、出席者の一人で、海を渡って運ばれていく物語や伝説、漂流物に新たな意味を持たせて再生する占部 史人さんの作品の思考には、彼自身の背景にあるお寺の息子であることや、仏教における輪廻転生の思想をアートの表現へと昇華しようという意識があり、作品を通して「死」や「再生」を考えることも、AITで開催するDeath Cafeならではの学びがありました。こうしたセッションは、2回、3回と繰り返してみることで、より豊かな対話が生まれるように思えました。

堀内 奈穂子(AIT)
プロフィール
  • Soft Shadows(ソフトシャドウズ)
    エマ・ドーブ、小島なお美、スーザン・クリスティーの3人は、2018年にスコットランドの田舎で発足したアーティスト・コレクティヴ、Soft Shadowsのメンバーである。ブリティッシュ・カウンシルの助成を受け、リサーチを続けながら活動をさらに発展させ、日本のアーティストやキュレーターと持続した関係性を構築することを目指している。
    3人は精神性や信仰、死の必然性、個人の選択と判断による死の奪還について話し合うことに興味を持つ。それは個人、家族、社会の単位で、これらのことについてより豊かな会話をすることができると考えているからである。私たち自身のため、そして私たち家族のために私たちは何を求めているのだろうか? 死んだ後、私たちは何が起こると信じているのだろう? 今日において、精神性が意味することとは?
    私たちのリサーチとDeath Cafeの形式は、個人の文脈を通して異なる信念を知ることで、人々が選択肢を得られる対話がうまれるきっかけを提供している。アーティストとキュレーターとして、こういった事柄をテーマに新しく作品を制作することは今の時代にとても重要であると考え、日本のアーティストやキュレーター、そして一般の人々とつながることは、時局的な変化への動きに加わる可能性を秘めている。
  • エマ・ドーブ(アーティスト)
    スコットランドのダンフリーズ・アンド・ガロウェイ州を拠点に、さまざまなアーティストやミュージシャン、学者、科学者らとコラボレーションしながら映像やインスタレーション作品を制作作している。作品の中枢にあるのは「隠されたストーリー」で、現在は主に異文化間の死にまつわる慣習やタブーをリサーチしている。これまでの活動に、場所や自然界、故郷の概念、個人の記憶といった事柄と地元コミュニティとの関係性を探求するプロジェクトを行った。これらは長回しの映像と声、フィールド・レコーディングが幾層にも重なる没入感のある作品である。完成した作品はイギリス、イタリア、スウェーデン、ルーマニア、ブラジル、メキシコ、インドの展覧会やフェスティバルで発表された。
    現在、ドーブは死の必然性をテーマにした新しい作品群に取り掛かり、Podcastや実験的な写真シリーズを制作している。
  • 小島なお美(アーティスト)
    日本出身。日本とスコットランドで美術を学び、2012年、モレイ・スクール・オブ・アート(BA Hons)をファーストクラスで卒業。詩人や他のアーティストらとコラボレーションを行いながら、イギリスと日本で作品を発表している。小島の作品は、私たちの頭の中で自分の観点や思考のプロセスが生成される前段階にある、全ての生命の存在や生きることの本来の姿を探求している。これらは、さまざまなメディアの手法を駆使して表現されている。
    小島はフォレスにあるフィンドホーンに住み、また、Orchard Road Studiosのメンバーでもある。
  • スーザン・クリスティー(キュレーター)
    エディンバラ・カレッジ・オブ・アートで学び、スコットランドのハイランドにあるCromartyに18年間拠点を置き活動するインディペンデント・キュレーターでありプロデューサー。
    20年以上に渡り、幅広い公共アート活動におけるキュレーションとコラボレーション、プロジェクトの指揮、プロジェクトの養成を経験した。それらは小規模の参加型イベントやプロジェクトのほか、さまざまなパートナーと一緒にアーティスト向けのリサーチ・レジデンス・プログラムをシリーズで開発したり、公共の場所での大型で複雑なプロジェクトも実施している。
    クリスティーはIOTA_を設立。これはスコットランドのハイランドの都市であるインヴァネスで行われた再生プログラムからうまれた、常に形を変える存在である。IOTA_のリード・キュレーターとして、実験的で独創的なプログラムを編み出し、パブリック・スペースを想像的、かつ思いもよらない形で扱い、公衆と積極的に関わりを持った。