Report Workshop|伊藤史子によるデザインワークショップ「マスクを作って、メッセージを伝えてみよう!」

Photo by Yukiko Koshima
Photo by Yukiko Koshima

身の回りにあるものをよく見つめ、「自分の感じ方」を大切にしながらマスク(お面や被り物)を制作するワークショップを2018年8月に開催しました。講師を務めたのはデザイナーでありアトリエリスタでもある伊藤史子さんです。伊藤さんは、回りの環境や自分自身をよく観察することによって社会との関係性を考えることをテーマに、子ども向けのワークショップや幼児教育に携わっています。 今回は赤羽にある児童養護施設「星美ホーム」にいる子どもたちを対象に行いました。星美ホームは児童福祉施設で、90人ほどの子どもたちが暮らしており、積極的に表現活動をカリキュラムに取り入れ、多角的に子どものメンタルケアをしています。ひとりひとりの子どもの心に寄り添いながらサポートをする星美ホーム専属のボランティアグループ「星の子キッズ」の存在は大きく、施設職員と連携しながらイベントを企画しています。中には20年近くもボランティア活動をしている方もいらっしゃいます。このワークショップも、星の子キッズの皆さんの協力のもと実現できました。http://seibi-kids.com/

 

アイスブレイク

ワークショップはまず身体を動かすことから始まりました。挨拶を済ませてから、身体と頭を解すためにみんなで円を描いてストレッチをすると、初対面なのにお互いの距離が一気に近づきました。

ワークショップには希望した子どもたち、小学生から高校一年生まで16名が参加しました。会場は星美ホームにある集いの場を意味し、芸術活動で子どもの心を癒す場所「サローネ」。大きなスペースを使って、伸び伸びとワークショップを楽しみました。

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Photo by Yukiko Koshima

気になる色、形、素材をみつけてみよう

伊藤さんが用意した素材は、アルミホイル、布、ジッパー、コルク、紙など、さまざまです。これらは普段ステージとして使われている場所に、虹色になるように色ごとに分けて綺麗に並べられました。素材の置かれ方でいつも何気なく使っているものがとても美しく見え、子どもも参加したスタッフも「わー、きれい!」と感嘆の声をあげていました。

まず初めに、たくさんの素材の中から子どもが好きな「色」のものを一つだけ選びます。そのあとは、三つの班に分かれての作業です。それぞれが選んできたものをグループ内でお互いに見せ合い、選んだ理由を話しました。透明のエアパッキンを選んだ女の子は、頭からそれを被せながら「透明人間になれそうだから!」と、選んだ理由を教えてくれました。黄色を選んだ男の子は、「総武線の色!」「総武線!閃いてきた!」と元気な声で答えてくれました。同じ「赤」でもさまざまな「赤」があり、素材によっても見え方が変わります。一つだけ選ぶのは難しく、なかなか決まらない子もいたり、素材にじっくり向き合う時間になりました。

次は、素材の中から、好きな「形」を一つだけ選びます。自分のコレだというものを、素材を触ったりしながらじっくりと時間をかけて探し、選んだ理由についてまたグループで話し合いました。自分が好きな「色」と「形」を手元に持って、組み合わせたり重ねたりして遊び始める子どももいました。

最後は、好きな「感触」のものを選びました。自分の持ってきた大好きなぬいぐるみに合わせたものを選ぶ子もいて、選んだ素材によって子どもの性格や好みが少しずつ見えてきました。

世界のマスクと自分だけのマスク

続いて、伊藤さんが世界のマスクについてレクチャーを行いました。マスクには神様にメッセージを伝える儀式で使われるものもあれば、自分ではない存在になり自分を隠す仮装として使われることもあります。伊藤さんがマスクをワークショップのテーマにした理由には、素材集めを通して自分のことをもっと知り、マスクを作ることで他の人との関係性を考える機会になればという思いがありました。

レクチャーが終わるとワークショップに戻り、世界のマスクなどを参考にしながら前半で選んだ素材を元にマスクを作る作業に入りました。どこから始めて良いか迷う子どももいましたが、道具から発想を得たり、大人や友だちとの会話を通してだんだんイメージを具体的にしていきました。今まで使ったことのなかったグルーガンが面白くて、大人に使い方を教わりながら素材をくっつけていく子どももいて、新しいことに挑戦することを楽しんでいました。

自分で作ったマスクをつけてポーズ

 

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Photo by Yukiko Koshima

マスクが出来上がったら、みんなで記念撮影。マスクを身につけることで自然と動きや言葉が出てきて、友だちとポーズしたり、マントを付けて走ったりしていました。こだわりを大事に時間をかけて自分らしい素材を選び、それぞれのイメージを形にしていく子どもたち。見守っていた大人たちも一緒になって楽しみました。自分のことを改めて見つめ直すことがテーマのワークショップでしたが、狙い通り子どもたちには発見の多い1日になったようでした。

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Photo by Yukiko Koshima

テキスト:清水美帆

参加者の声

ただ物をつくるのではなく、自分の好みがわかることで、自己理解に繋がったり自分の中で小さな発見があったり、心の奥の気持ちが伝えられた、素晴らしいワークとなりました。

山北千束(星の子キッズ)

身近な素材を丁寧に見つめ、それを身体全体で感じながら、自分の「気になる」について考えたりみんなに共有してくれました。マスクは、顔だけではなく全身用であったり、大切なぬいぐるみ用であったり、十人十色のやり方や世界観が創られていく現場の空気が印象的でした。

伊藤史子(講師)
プロフィール
  • 伊藤史子(いとうふみこ)
    デザイナー・アトリエリスタ。東京藝術大学デザイン科卒業、同大学院修了。スイスローザンヌ美術大学(ECAL)MAS-Luxury科修了。オランダ デザインアカデミー・アイントホーヘンでコンセプチュアルデザインを学ぶ。世界で注目されているイタリアのレッジョ・エミリアとオランダの保育施設でアトリエリスタの経験を経て、国内外でコンセプチュアルデザイナーとして、エシカルでイノベーティブな視点から幼児教育に関わる。「Museum Start あいうえの」(東京藝術大学&東京都美術館)リサーチャー・アトリエリスタ、「ココイクアトリエ」(新宿伊勢丹)デザイン・監修、「市原湖畔美術館こども絵画展」会場デザイン、その他、ワークショップの企画、監修から保育現場におけるアート・コンサルタントなど幅広い活動をしている。東京藝術大学非常勤講師。http://www.fumikoito.com