Report Online workshop|科学と生活の教室 vol.3レポート 光のスペクトル、環境、アート

dear Meでは、今回で3回目となるアーティストの三原聡一郎さんによるオンライン・ワークショップを開催しました。
本ワークショップは、アートの思考や表現を通して子どもたちが身近な生活から科学を学び、発見することを目指しています。子どもたちはオンラインで参加しながらも、アーティストが製作した実験キットを使いながら、知覚体験を通して学ぶことができます。
3回目となる本ワークショップは、多様性を理解する社会貢献活動の一環として新生銀行グループによる寄付で開催されました。
リピーターも多い本ワークショップの様子をミニレポートでお届けします。

テーマは、「光のスペクトル」

アーティストの三原聡一郎さんは、世界中を旅しながら、科学者や研究者と一緒に、環境について意見交換をしたり、自然の中で見つけたものと、自分で発明した機械やテクノロジーとつなげて、だれも見たことがない新しい装置を作品として発表しています。本講座シリーズではこれまでに、自然素材を使った科学の実験や、五感から発見を楽しむワークショップを実施しています。

今回のテーマは、「光」。生命やエネルギーの源ともいえる、太陽。その光や紫外線、光を感じる感覚について、みんなで考えました。

ワークショップでは、三原さんがどのように「光」を使って作品をつくっているのか、また、光やスペクトル* の歴史をはじめ、人間だけでなく犬や蜜蜂など動物や虫と光・紫外線の関係など、光にまつわる色んなお話を聞きながら、手元に届いた実験キットを使って光の体験を楽しみました。

ワークショップでは、今回も、事前に三原さんやdear Meが選んで詰め込んだ特製の実験キットを参加者のもとに配布しました。

* スペクトル:太陽の光をプリズムに通すとできる、虹のような色の帯。万有引力を発見したニュートンの実験が有名。


三角プリズムや、装置で、「光」を感じる仕組みについて知ろう

ワークショップの最初に、参加しているみんなの紹介タイムとして、自分の好きな色と、今日呼ばれたい名前を伝え合いました。緑や青、水色、赤、オレンジ、ピンク、紫、黄、白や黒、金色など、それぞれ自分の好きないろんな色が飛び出します。今回は、日本全国のさまざまな地域から、20組24名の、年少から高校生、大人の参加者が集まりました。

ゲストの三原聡一郎さんは、京都のスタジオから参加しました。AIT堀内の進行で、ワークショップの始まりのあいさつとアーティストの紹介、みんなの自己紹介のあとは、いよいよ、三原さんにバトンタッチ。

三原さんの自己紹介の最初に、みんなへの問いかけとして、「なんで見えるの?」という質問が書かれたスライドをみせました。
「なんで“見える”のか、わかるひといるかな?」

こども「ものが光に反射して、それが目にとどいているから」
みはら「そうだね。目があって、光があるから。もっと詳しく答えてくれたね。目がないとみえないし、光がないと、みえない。どちらかひとつではだめなんだね。では、そのことについてじっくり、話をしていきます」

そして、実験キットの要素をひとつひとつ確認しながら、「見える」仕組みのお話をしました。箱の中には、三角プリズム、三原さんが栽培している苔のサンプル2種、偏光フィルタ、LED回路、そして緑茶とお菓子のセット。

三原さんのこれまで訪れた場所の写真では、そこで見つけた砂や土を見せながら、複雑に移り変わる自然の中の色に魅了されたエピソードを紹介。三原さんは、好きな色を聞かれると、困ってしまうそう。なぜなら、自然の中には本当にたくさんの絶妙な色が溢れているから。

そして、三原さんの光のプリズムを使った作品を紹介したあと、ニュートンの書いた本や光の屈折のお話をして、実験キットの三角プリズムを使って、みんなで虹を探してみました。

こどもたち
「うすいけど、(虹が)うつった!」
「プリズムの中に、虹がみえます」
「きれいにみえました」

ワークショップ当日は日本各地であいにく曇り空が多く、なかなかはっきりとしたプリズムの虹は見えなかったひともいたようです。晴れた日にまたぜひ、さがしてみてくださいね。


人や鳥、蝶の視覚の違いについて考える

続いて、プリズムで見えていた色の幅について、考えてみました。いま見えていた虹の色以外にも、人間には見えない色が、太陽の光の中にはたくさん含まれているそう。

赤よりも赤い色、紫よりももっと紫色など。そんな色を、見える生き物が私たちの身近にいるんだそう。「どんな生き物にその色が見えるか、知っている人いますか?」

こどもたちが次々に答えてくれます。
「はちどり?」
「昆虫!」
「ねこ」
「いぬ」

「そうだね。鳥や蜂も、人には見えない色を見ることができるね」
スライドで、人と、動物たちの見えている色の世界を、グラフで紹介。そして、人間には見えない色の幅を一番たくさん見ている生き物は、蝶々なのだと教えてくれました。

改変引用:犬や鳥は人間と同じ見え方をしてるのかな?~その3「視覚」~ https://ist-ud.iseto.co.jp/?p=1685

人に見える「可視光線(かしこうせん)」と呼ばれる色の範囲のほかにも、目では見えない紫外線や赤外線など、さまざまな光と色の種類があるんですね。


RGB、色の三原色を体験してみよう!

次は、R(赤)、G(緑)、B(青)について考えていきます。USBでつなぐ、LEDのボタンがついた装置を手に、色の実験をしてみました。

みはら「さっきみんなが、好きな色をあげてくれたんだけど、実は人には、RGBの3色しか、見えていないんです」

USBのボタンで、赤、青、緑を1個ずつ点灯させたり、ふたつを一緒に押してみたら、色が混ざり合って見えます。人間の脳の中で、混ぜ合わせた色として認識されるんだとか。不思議ですね。

みはら「一緒に押したら、何色に見える?」

こどもたちの声
「水色になった!」
「お化け(の色)みたい」
「薄目で見ると、色が混ざっていない」
「スカイブルー」
「全部の色を合わせると、薄紫か白?」
「アクアブルー?」
それぞれの色の感想が飛び出しました。

みはら「みんなは、動物たちはどんな色が好きなんだと思う?」
なお「フラミンゴは、自分がピンク色だってこと知ってるのかな?」

こどもたち
「コウモリは、紫がすきだと思う」
「さかなは青が好きなんじゃないかな。水の中にいるから」
「だから、赤が好きかもしれない」

みはら「動物に聞いてみないとわからないね。恐竜も、実際の皮や外側があまり残っていないから、絵では茶色や薄い色で描かれることが多いんだけど、研究者の中には、極彩色だったんじゃないか、と言う人もいますね。ぜひ、みんなも想像をふくらませていってほしいなと思います」


太陽の恵みいっぱい、葉緑素をいただきます

後半には、ひとやすみをしながら、「葉緑素(ようりょくそ)」たっぷりの、緑茶のセットとお菓子をいただきました。緑茶は、釜炒り緑茶、玉緑茶、3種類。釜炒り緑茶は、100年前のお茶づくりの手法をそのまま再現したものだそう。お菓子は、お砂糖を一切使っていない、リュウゼツランという植物からとれたアガペシロップをつかった、抹茶のお菓子。自然の植物からの恵みを味わいながら感じてみます。

こども
「おいしいです!」
「(アガペは)テキーラの材料」

「くわしいね〜」

ちなみに、三原さんは、植物がなぜ緑なのか、植物自体が緑がすきなのか調べたところ、緑に見えているのは、反射している光によるもので、実際は、赤と紫、青がメインなのだそう。

その後、三原さんが育てている苔から、ランダムに2つ、みんなの手元にある苔を紹介しました。それぞれの苔をじっくり眺めながら、その違いを確認しました。どれも、みんなの身の回りにたくさんある苔なんだそう。苔のサンプルは、水分を時々与えてあげると、ゆっくり成長して、1年後には2倍ほどになるのだそう。
苔は世界中で1万種弱もあるそうで、自分の好きな苔を見つけたら、大切に育ててみたいですね。

今回は光の仕組みや、植物、動物、人の視覚の違いをメインに、実験とお話を楽しみました。

みはら「これからも、虹をみたり、綺麗な色をみつけた時に、きれい、だけでなくて、どうしてこんな色をしているんだろうと少し考えてもらったり、今日の色の三原色について思い出してもらえたら嬉しいなと思います。」

今後もAITでは、テーマを変えて、こうしたワークショップを不定期で開催していきます。どうぞお楽しみに!

[ キーワード ]

● テクノロジーと自然の関係性を考える
● アートからサスティナビリティを考える
● 子どもの自主的な発見と学び
● アーティストの仕事と視点から学ぶ
● 多様な子どもと大人が学び合い、発想し合うトレーニング
● オンラインとオフラインの学び

 

参加した子どもたちの声

・アーティストってなんなんやろ〜 でした!
・なかなか難しいイベントだった。
・楽しかった。また参加したい!
・新しく知ることも多くて、とても面白かった。
・人間以外の見え方を知ることができて、面白かった。

参加者・アーティストの声

今回は最も根源的な知覚をお話しするのでドキドキでしたが、本当にじっくり聞いてくれて、僕もみんなの質問やリアクションでとても勉強になりました。何気ない日常の感覚にも原理や法則が有るということだけでも、みんなの心に残ってくれたらと思っています。
これから何かが気になって観察したり、見えている世界の異なる友達や伴侶(種)に出会うかもしれません。具体的に工夫したり、想像したり、伝えたり、元気なみんなは楽しくやっていくと思いますが、もしや調べている時に、この話そういえばアーティストから前に聞いたなあ、と思い出してもらえたら幸いです。後日、家を整理していたら、だいぶ前に買ったニュートン光学の虹ダイアグラムデザインのTシャツ出てきたんですね。当日着とけば良かった。ものすごく悔しい(笑)

三原 聡一郎(アーティスト)

参加者の中では比較的低年齢での参加でしたが、専門的なことの入り口となるお話とそれを実感できる体験がセットになっていて、とても有意義な時間となりました。三原さんの落ち着いた語り口や、正解がない類の問いかけ、内省的な楽しみ方・興味の持たせ方など、いわゆる子ども向けのワークショップ型イベントがもつ過剰さとは真逆のアプローチが心地よく、自宅での受講に最適な落ち着きのもとで、親子ともどもじっくりと思考し楽しむことができました。

参加した子どもの保護者

面白い内容で、色と光について今まで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなく、仕組みとかを楽しく学べました。参加者のお子さんたちの反応もとても面白かったです。

参加した子どもの保護者

チャットでのコミュニケーションを楽しんでいました。リアルタイムにコメントを読み上げていただき、それによってお話が展開していくインタラクティブな進み方が本人に合っていたようです。

参加した子どもの保護者

興味ある分野の専門家や詳しい人の話を聞いたり、その人と話すときは目がキラキラしてホントに楽しそうでした。
アーティストさんや、他の参加者の子たち、AITのスタッフさんと交流できて、嬉しそうでした。

参加した子どもの保護者
プロフィール
  • 三原聡一郎(アーティスト)
    1980年東京都生まれ、京都府在住。情報科学芸術大学院大学 [IAMAS]修了(2006年)。音、泡、放射線、虹、微生物、苔、気流、電子、水など多様な素材をモチーフに、自然現象とメディアテクノロジーを融合させた実践を行う。
    http://mhrs.jp/
  • dear Meオンライン講座について
    dear Me プロジェクトはこれまで、時に鋭く社会を眺めるアートの思考に子どもたちが触れることで、複雑な世界を自分なりにとらえて表現するワークショップを実施したり、子どもを取り巻く社会課題を大人が考え共に考察することで、アートと福祉の協働を目指す場をつくってきました。
    今、パンデミックによる見えないモノへの脅威や価値観の揺らぎによって心の健康が揺さぶられる中、dear Meでは、アートの体験がどのように「メンタルヘルス」や時に「ケア」と結びつくか考えたいと思っています。dear Meオンライン・アート講座も開講中。

    *dear Meでは、子どもたちとのプログラムを実施するにあたり、寄付をはじめとするサポートを募っています。一緒に子どもたちとの学びを育んでみたい方はぜひご協力ください。