Report Event|お金ではない交換システム|駄菓子屋たばZ、スウェーデンからのアーティストの絵本ワークショップ

自分でつくったバッヂを手にする Photo by Miki Kitazawa
自分でつくったバッヂを手にする Photo by Miki Kitazawa

CINRA.NETが主催した、みんなでつくる文化祭「NEWTOWN(ニュータウン)」の一環で行われた美術展「Precious Situation」に、dear Meとして参加し、子どもたちが自由に参加できる「たばZ(子ども駄菓子屋)」を出展しました。

多様な価値観と出会うきっかけづくりや作品が生み出す“交歓”をメインテーマとする美術展「Precious Situation」では、dear Meのほか、オル太、今井さつき、ABEBEが参加しました。

子ども駄菓子屋プロジェクト in NEWTOWN

「たばZ(ゼット)」は、高知県在住のアーティストユニット「KOSUGE1-16(こすげいちのじゅうろく)」の小学生の兄妹のお子さんが考案した駄菓子屋プロジェクト。

お金ではない交換の方法で駄菓子をもらえるお店。子どもたちが遊びに参加したり、駄菓子屋の店長をすることで、「たばゼットポイント」をもらい、駄菓子やおもちゃと交換できる仕組みです。

今回、特別に出張型「たばZ(ゼット)in NEWTOWN」として多摩ニュータウンにやってきました。もともと学校だった校舎の空間で開催されたイベント。教室には、色とりどりの駄菓子やおもちゃが並んだ、「たばZ(ゼット)」屋台。通りすがりの子どもも大人も、興味津々にお店をのぞいていました。

今回のたばZ屋台では、オリジナルのたばZポイントカードを使い、いくつかのお題から好きなものを選び、色々な方法でポイントを貯めることができます。貯めたポイントに応じて、好きなお菓子やおもちゃと交換できる遊びです。

たばZ(ゼット) in NEWTOWN のお題

● たばZのオリジナルキャラクターを考えたら1ポイント
● 描いたキャラクターを部屋に展示したら1ポイント
● 自分で絵を描いて、バッヂをつくると1ポイント
● 隣の展示室のアーティスト、今井さつきさんの参加型作品に参加して花を1輪つくると2ポイント
● 子ども店長を15分することで1ポイント

子ども店長の役目を立候補してくれた小学生のひとりは、チラシを手に、呼び込みから頑張ってくれました。最初は少し恥ずかしそうにはにかんでいた店長も、だんだんといい笑顔で積極的に声をかけられるように。

机の上には、用意されたワークシートや、色塗りの画材、オリジナルのバッヂを作ることができるバッヂマシンなど、所狭しと並んでいます。参加者それぞれ、自分の作りたいものや、参加しやすいものを選んで、「Z」ポイントに交換していきます。

隣の部屋で展示をしていた作家の今井さつきさんのプロジェクトで、手作りの花を何本もつくってポイントをどんどん貯める強者も。

その場で描いた自分の絵が簡単にグッズにできる、オリジナルのバッヂ作りも大人気。バッヂマシンのまわりは、いつも人だかりです。サッカーの練習帰りの男子グループも連日バッヂづくりに遊びに来て、お互いの絵柄に大盛り上がり。描いた絵を隠していると思ったら、おしりの絵を描いて、くすくすと笑ういたずらっ子も。

色とりどりのパッケージに包まれた駄菓子が並んだたばZ屋台の前では、貯めたポイントの「Z」スタンプが押されたポイントカードを手に、どれにしようかとじっくりと真剣に、時間をかけて考える子どもや大人の姿がありました。

かつての昭和の街には沢山みかけた昔ながらの駄菓子屋さんは、時代の変化とともにだんだんと少なくなってきましたが、いつの時代も、小さな駄菓子やおもちゃのスーパーボール、くじが付いたカードは、子どもも大人もワクワクさせてくれるようです。

好きな画材を手に、思い思いに手が進みます。大人や友達と一緒に考えてキャラクターやバッヂをつくる子もいれば、黙々とつくりあげる子も。それぞれのペースで、たくさんの表現が生まれていました。


スウェーデンのアーティスト、アーロン・ランダールの絵本読み聞かせ

イベント2日目には、IASPISの助成でスウェーデンから日本を訪れていたAITのレジデンスアーティスト、アーロン・ランダールも、「たばZ in NEWTOWN」のdear Me ゲストとして参加しました。

ジブリのアニメーション映画「魔女の宅急便」の舞台のモデルとなった場所でも知られる美しい島、ゴットランド島に生まれ育ったアーロンは、幼い頃から自然に囲まれて育ち、環境やちいさな生命に関心を寄せるアーティスト。

繊細なタッチで、動植物や空想の生きものなどのイラストを多く手がけています。中には、現代社会を批評的な眼差しで捉えたモチーフも沢山登場します。

環境への配慮のために、今回、スウェーデンから日本へは、飛行機を使わずに、フェリーと鉄道のみの移動で、ユーラシア大陸を横断し、旅をしながらやってきました。

そんなアーロン・ランダールのスウェーデンで出版されたばかりの、自身の絵本《Dropp Dropp》を用いて、子どもたちへの絵本の読み聞かせを行いました。生物学者でもあるパートナーのクララがスウェーデン語で、続いてアーロンが日本語でテキストを読み聞かせました。

「Dropp Dropp(ポタ・・ポタ・・)」
雫の滴り落ちる音とともに、真っ赤なしみの行方を探っていく、ちょっと不思議で、ちょっと怖くて、お茶目なモンスターたちが登場する物語。

ページをめくるたびに、子どもたちは真剣な顔で聞き入っていました。

絵本の読み聞かせのあとは、子どもたちが自分の考えた想像上のモンスターと、そのモンスターの好物の食べ物を考えて絵や文字で描くワークを行いました。

参加した子どもや来場者の描いた、たばZキャラクターやオリジナルモンスターは、身近な人をモチーフにしたものや、好きな動物など、特徴もそれぞれ個性溢れる、ユニークな表現が沢山ありました。

水の上をすべっているキャラクター


教室のあちこちに貼られたキャラクターシート

完成したキャラクターの絵は、部屋いっぱいにどんどん展示されていき、最後にはみんなでつくった展覧会になりました。
沢山のオリジナルキャラクターを考えてくれた皆さん、ありがとうございました!

たばこをくわえて、手でZ(ぜっと)をアピールしているキャラクター


アーロンをモチーフに描かれたキャラクター「アーロナット」(小学生作)

メインテーマの「交歓(こうかん)」の通り、この2日間は、誰一人として同じものはない多様な価値観や表現が自然に融合し、ごちゃまぜに行き交った時間でした。
自分のアクションによって、お金ではない方法で駄菓子やおもちゃと交換できる仕組みに、子どもたちの中には目を輝かせながら「本当にいいの?」、「すごい!」といった声も聞こえてきました。元祖店長、KOSUGE 1-16の兄妹が考えた「たばZ」の仕組みを通じて、お金とは違う価値について考える、ひとつのきっかけになったのかもしれません。

たばZ(ゼット)屋台とdear Meは、色々な場所にこれからも出没していく予定です。ここで出会った沢山の人たちとも、またどこかでお会いできることを楽しみにしています。

スタッフの声

初めてdear Meのワークショップに参加しました。大賑わいで、その人につられてきた子どもたちが飛びつくように駄菓子の屋台に走ってきたのが印象的でした。あと何ポイントでこれを買えるかな、何を買おうかな、とキラキラとした目で駄菓子を見つめる姿は、今の時代も変わらないのだと感じました。また、いかにも野球少年のような子から、お絵かきが好きな子まで本当にいろんな子どもたちが楽しんで参加してくれて、その作品も多様でした。

オリジナルキャラクターを作るという課題では、家族をキャラクターにしたり、動物をキャラクターにしたりと、それぞれの子の「好き」がたくさん詰まっているようでした。子どもの感性は本当に素直で、好きな色を使って、好きな形、ものを書いて。そして、アーティストと関わって、言葉がわからなくとも描いたものでコミュニケーションをしてつながって。お菓子と同じかそれ以上に缶バッジが大人気で、やはり「自分の描いたものが形として残る」という経験は、嬉しいもののようでした。たくさん作って、あちこちバッジをつけ、ニコニコと身体中につけたバッジを見せてくれる子も何人もいました。
 「描く・作る・表現すること」。何気なく、生活をしている中ではなかなかしません。それでも、恥ずかしがったりしつつ素直に楽しんで、表してくれること。今は街中で見なくなった、駄菓子でみんなが喜んで、たくさん考えてお買い物をすること。ものを売るということを知ること。アートを基盤として、コミュニケーションをとってくれること。それらが、なんだかこみあげるように嬉しかったです。

毛利 芽衣(大学4年 / AITインターン)
プロフィール
  • たばZ(たばぜっと)
    駄菓子屋「たばZ」は2016年11月に高知県佐川町にオープンした、対面式のお店。元は、アーティストユニットKOSUGE1-16の自宅に子どもたちが開いたお店で、子ども店長と副店長がいる。
    『なぜたばZという名前にしたかというと、ここはもともと商店でタバコも売っていてそのタバコを売っていたところのかんばんに書いてあるタバコの「こ」の間がつながっていて「Z」に見えたので「たばZ」にした。』
    (元祖・店長談) 今回、元祖・店長から預かった、たばZ屋台が特別に本イベントに初出張。
  • アーロン・ランダール|Aron Landahl
    スウェーデン、バルト海に浮かぶゴットランド島生まれのイラストレーター。マルメにあるコミック・アート・スクールで学んだランダールの作品は、スウェーデンで発行される雑誌などの媒体で見られ、そのイメージは、自然そのものや人間の手が加えられていないひっそりとした環境を描写しつつ、どこか不気味な佇まいも持ち合わせている。スチールペンとインクを用いて描く線影は、ディテールを捉え、霧がかった印象をにじみ出している。 2019年、自身初となる児童書《Dropp Dropp》を出版。ギャラリースペースだけでなく、ウプサラ大学病院での展覧会(2017年)などに参加したほか、2011-12年、トルコとジョージアにおいて昆虫研究も行うなど、創作の関心は幅広い。

    日本の滞在では、幼少の頃に図書館で出合った葛飾北斎『富嶽百景』(100 views of Mt. Fuji)をリサーチしながら、ゴッドランド島に程近い自然保護公園のカールスオー(Karlsö / ケーキのような特徴ある地形と、珍しい野鳥や自然植物の生育地として知られる)をその情景になぞらえた作品プロジェクト《100 views of Karlsö》の制作を進めた。そのほか、自身の絵本を用いた子どもたちとのワークショップを行った。
    RESIDENCY
    滞在期間:2019年9月4日 – 2ヶ月間
    助成機関:Iaspis (Sweden)
  • Precious Situation
    CINRA.NET主催のイベント『NEWTOWN 2019』内で開催される、多様な価値観と出会うきっかけをつくる場を目指し、作品が生み出す“交歓”をメインテーマとする美術展。社会福祉とアートをテーマに活動している、または多様な来場者との交歓を志向できるアーティストの作品を紹介。参加作家は、今井さつき、オル太、ABEBE、dear Me。キュレーターは青木彬。
    会期:2019年10月19日(土)、10月20日(日)
    会場:東京・多摩センター  デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ
  • NEWTOWN 2019
    2019年10月19日(土)、10月20日(日)
    会場:東京都 多摩センター パルテノン多摩、パルテノン大通り、デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧三本松小学校)

    音楽ライブ:
    カネコアヤノ、前野健太、柴田聡子、王舟、国府達矢、眉村ちあき、君島大空、ROTH BART BARON、betcover!!、羊文学、DÉ DÉ MOUSE&Akinori Yamamoto from LITE、永原真夏、Mom、Maica_n、荒川ケンタウロス、よしむらひらく、渡會将士、NakamuraEmi、ザ・なつやすみバンド、大比良瑞希、五味岳久(LOSTAGE)、ラッキーオールドサン、ninoheron(uri gagarn、group_inou)、沖ちづる、笹川真生、Nagie Lane、錯乱前戦、マーライオン、KUDANZ、磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS)、Jurassic Boysアコースティックセット、BROTHER SUN SISTER MOON、TheWorthless、おどるんたたくんand more

    音楽ライブほか、美術展、映画上映、演劇&ダンス、落語、ポエトリー、のど自慢大会、トークショー、盆踊り、ワークショップ、子どもの遊び場など。マーケットも同時開催。公式サイト https://newtown.site