Report Report|アンビエント音楽と子どもたちの表現、可能性に溢れた時間 アトリエ・エー赤荻 徹さん

コレクティヴ・アメイズメンツ・トゥループ [CAT] のプログラムで開催した音楽と精神のワークショップを受け、アトリエ・エーを主宰する赤荻 徹氏による「マーク・トゥー・ザ・ミュージック」ミニレポートをお届けします。


さまざまな垣根を越え、どんな人にもひらかれたアートクラス

アトリエ・エーは、2003年から東京・渋谷区で活動する、ダウン症、自閉症の子どもたちを中心としたアートクラスです。

アウトサイダー・アートに興味を持ち、アーティストを探すキュレーターのような心持ちで活動に取り組んでいたこともありましたが、長い年月を経て、絵の評価とは別のところにあるアート活動の表現の自由が、障害のある人とない人を結びつけるハブとなり、おたがいのケアの手がかりとなることに、より注目するようになりました。

2022年ヨーロッパ年間最優秀博物館賞を受賞したオランダのミュージアム・オブ・マインド(心の美術館)からキュレーターのヨレイン・ポスティムスさんを、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウの働きかけで招いた音楽と瞑想のワークショップ「マーク・トゥー・ザ・ミュージック」の開催は、そうしたアート活動を実践した新しい取り組みのひとつです。


人と人を結びつけるきっかけとなる、アート活動

2023年12月16日のワークショップでは、会場となった教会敷地内のかまぼこ兵舎を射す冬の光と、高野寛さんたち4人の即興音楽の美しさが相まって、藤村頼正さんが「天国のようだ」と形容したように、そこにいたすべての参加者を神々しい光と音が包む、すばらしい時間を過ごしました。そして前述したとおり、参加型、対話型のアート活動が、人と人とを結びつけるきっかけになることを、あらためて確認することができました。

オランダのプログラムを日本にシフトしたことで、やってみないと分からない不安も多くありましたが、参加した子どもたちは「瞑想すること」「音を絵にすること」というお題をすぐに理解して、それぞれの表現にまっすぐに取り組んでいました。瞑想パートでは、ヨレインさんのナビゲーションで、寝転んだり、拝んだり。演奏パートでは、音楽に合わせて点や線で抽象的な絵を描いたり、リズムを刻んで筆を振ったり、手足をつかって絵を描いたり。

加えて、いつものアトリエ・エーと同じように発表の時間をつくり、それぞれの作品を全員で共有し、祝福したことで、会場全体に、障害の有無にかぎらず、言語、国籍を含むあらゆる違いを超越した一体感が生まれました。

そのなかでも「音を絵に」というキーワードから、齋藤紘良さんが弾いていたチェロをていねいに写生し「楽器を絵に」した作品や、音楽をテーマにした連続テレビドラマ小説「ブギウギを絵に」した作品など、とんちが効いた作品群が生まれたことが、個人的にとてもおもしろく感じました。

また、オランダ国旗を作品内に描いてヨレインさんに直接的なアピールをしたり、漫画「キングダム」をイメージして描いていた絵を、ヨレインさんが「キングダム」を知らないことを察知したのか「森から中国服を着た戦士が現れ、血の海が広がった…」とポエムのように発表したりと、講評を担ったヨレインさんの国籍やパーソナリティを理解して、表現や発表を寄せてきた数人のアプローチはとても印象的でした。

参加者に変化がありましたか、という質問については、そもそもこのワークショップの数時間での変化を探すことは重要ではないと思っています。ただ、例えば、イルカを描いて発表したゆかりさんは、アトリエ・エーに参加した当初と比べると、絵を描くこと、発表することに明らかに積極的になりました。ゆかりさんのように、長期的に活動に参加するなかで変化が現れ、その変化がポジティブであることは、とても嬉しいことです。


アンビエントの即興演奏と子どもたちの表現、数々の可能性に満ち溢れた時間

オランダと日本が協働して子どもたちに提供したワークショップのプログラムでしたが、振り返ると逆に、子どもたち側から、より新しい、複合的なプログラムの提供を受けたかのような不思議な感覚を持ちました。それはワークショップの準備段階で描いていた希望と想像をはるかに超えた、五感を満たす、すばらしい時間を過ごしたからに他なりません。この日のプログラムは、「瞑想すること」「音を絵にすること」にとどまらず、「音を聴く」「音を出す」「光を感じる」「身体を動かす」などに特化することで、枝分かれしてたくさんのプログラムが生まれる可能性に満ちあふれていました。

「マーク・トゥー・ザ・ミュージック」のような新しい挑戦は、脳内での想像を超えて、また新しい別の何かを生み出すことにつながります。あらためてその実感を得たことが、今回の協働プログラムのいちばんの収穫であり、ヨレインさんと通訳の池田哲さん、藤井理花さん、堀内奈穂子さんをはじめとするAITのみなさん、そしてアトリエ・エーのスタッフ、保護者と子どもたち、会場となったカトリック世田谷教会、協賛いただいた各社、そして新しい挑戦を引き受けてくださった4人の音楽家、高野寛さん、齋藤紘良さん、藤村頼正さん、コーディネートもお願いした安永哲郎さんに心から感謝いたします。アンビエント音楽の即興演奏は多くの人にシェアしたいと思わせる、とても美しいものでした。

テキスト:赤荻 徹(アトリエ・エー主宰)     写真:阪本 勇

プロフィール
  • 赤荻 徹
    2002年よりダウン症の子どもたちのサッカーチーム「ABLE FC(エイブル・エフシー)」のコーチを務め、2003年よりダウン症や自閉症の子どもたちを中心とした絵の教室「アトリエ・エー(atelier A)」を主宰。2006年アール・ブリュットを特集した雑誌「←→special」編集発行、アトリエ・インカーブ画集「ATELIER INCURVE」編集。日本財団DIVERSITY IN THE ARTS主催「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」展(2017年)リサーチキュレーター、「ミュージアム・オブ・トゥギャザー・サーカス」(2018年)および「TURNフェス5」(2019年、東京都、アーツカウンシル東京ほか主催)のトークセッションに参加。
  • アトリエ・エー(atelier A)
    ダウン症、自閉症の子供たちを中心とした絵の教室。赤荻徹・洋子夫妻により、2003年より東京・渋谷区で月1回開催。デザインやアートに関わるスタッフを中心に、一緒に楽しみながら、子供たちが制作する環境づくりを行う。限りなく自由に、子どもたちとスタッフが互いに刺激しあい、友情を育み、それぞれに新しい発見をする場として、また、年齢や障害の有無を問わず、たくさんの人との出会いを経験するための開かれた活動を目指している。
    instagram @atelier_a2003