Report Art Picnic|お出かけ鑑賞ワークショップ「N・S ・ハルシャ展:チャーミングな旅」

N・S・ハルシャ《タマシャ》(部分) 2013年 ファイバーグラス、布、竹、コイア Photo by Takaaki Asai
N・S・ハルシャ《タマシャ》(部分) 2013年 ファイバーグラス、布、竹、コイア Photo by Takaaki Asai

2017年6月、六本木の森美術館で鑑賞イベントを行いました。多様な背景や価値観を持つ人々が集い、じっくり作品と向き合うことでひとりひとりの想像力や表現を引き出し、それを互いに伝え合うことで様々な見方や視点を共有し、自由な鑑賞を楽しむワークショップです。 今回は森美術館で開催中の、南インド出身アーティスト、N・S・ハルシャ(1969年生まれ)の個展「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」を皆で一緒に鑑賞しました。美術館のラーニング・プログラム担当者より、展覧会についてのガイドをしていただきながら、作品の前で参加者同士が自分の言葉で感じたことや思ったことを自由に話し合いました。参加したのは、「多様性が尊重される社会」を目指し活動するNPO法人日向ぼっこやエイトを通じて集まった小学生から大学生、社会人までの参加者で、子どもグループと大人グループに分かれて展覧会を楽しみました。

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「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 Photo by Takaaki Asai

 

N・S・ハルシャはどんな人?

N・S・ハルシャの名前やアーティストの出身地である南インドの古都マイスールの文化や宗教について、インドの神様のお話を聞いたり、風景の写真を見ながら教えてもらいました。作品には動物が多く登場しますが、動物と人間の距離が近しい地域に住む作者にとっては日常的な光景だそうです。

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N・S・ハルシャ《私たちは来て、私たちは食べ、私たちは眠る》(部分)1999-2001年 合成樹脂絵具、キャンバス
展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 Photo by Takaaki Asai



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N・S・ハルシャ《私たちは来て、私たちは食べ、私たちは眠る》(部分)1999-2001年 合成樹脂絵具、キャンバス
展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 Photo by Takaaki Asai

繰り返されるモチーフをよく見ていくと、それぞれ仕草も表情も違います。「この人は違うことをしている」「動物もいる! 」観ているとどんどん想像が膨らんでいきます。

ハルシャは、当たり前と思っていることを見直し、そこから人、暮らし、社会、経済、宇宙へと思考を広げています。また、人物や動物をたくさん同一画面に描く反復表現は、独特なリズムを生み出していました。これらは、全体を見れば一つの集団ですが、それぞれの表情や姿勢は異なります。多言語、多宗教、多文化のインドを反映すると共に、個人と集団の関係性も考えさせる作品群です。

「どうして笑っていないの?」

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N・S・ハルシャ《ここに演説をしに来て》(部分)2008年 アクリル、キャンバス
展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 Photo by Takaaki Asai

「なんで顔がいっぱいあるの〜?」

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参加者同士で意見交換、「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 Photo by Takaaki Asai

ハルシャの絵に出てくる人々の表情についての話がありました。幸福や未来をテーマにしているアーティストという解説が美術館からはありましたが、よくよく見ると描かれている人の表情はあまり楽しそうではありません。これはどうしてなのか。文化的な違いから笑顔や幸せの表現方法が違うのではないか、そう言えばニコニコしたいわゆる笑顔の絵は世の中にあまり無い、など、いろいろな意見が飛び交いました。

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N・S・ハルシャ《空を見つめる人びと》(部分)2010/2017年 アクリル、合板
「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、 2017年 Photo by Takaaki Asai

ハルシャの描く人々の中に自分たちも加わり記念撮影。天井に鏡があることが楽しい様子で、子ども達は仰向けに寝転がって壁を蹴り、誰が遠くまで進めるかという競争をしていました。

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N・S・ハルシャ《ネイションズ(国家)》(部分)2007/2017年
193台の足踏み式ミシン、アクリル、キャンバス サイズ可変
展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、 2017年 Photo by AIT



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N・S・ハルシャ《レフトオーバーズ(残りもの)》(部分)2008 / 2017年
アクリル、プラスティック用樹脂、キャンバス、サイズ可変
展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 Photo by Takaaki Asai



N・S・ハルシャ 《レフトオーバーズ(残りもの)》(部分) 2008 / 2017年 アクリル、プラスティック用樹脂、キャンバス サイズ可変 展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 撮影:椎木静寧 写真提供:森美術館

N・S・ハルシャ《レフトオーバーズ(残りもの)》(部分)2008 / 2017年 アクリル、プラスティック用樹脂、キャンバス、サイズ可変
展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 撮影:椎木静寧、写真提供:森美術館

バナナの葉に料理をのせて食べるインドの伝統料理を日本の食品サンプル会社と共同で制作した作品の前ではこんな会話がありました。

「この食事は、食べ終わった後か、これから食べるところか、どちらだと思う?」
「たくさんあるから、これから食べる!」

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展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 Photo by Takaaki Asai



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N・S・ハルシャ《ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ》2013年 アクリル、キャンバス、防水布
展示風景:「N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅」森美術館、2017年 Photo by Takaaki Asai

おしゃべりしながらティータイム

ワークショップ終了後は、大人たちでティータイム。みんなでハルシャの作品や現代アートについて話したり、振り返りを行いました。

参加した大人たちは、普段現代アートに触れる機会の少ない人もいれば、馴染みのある人もいて、それぞれが感じる面白さや難しさを話しました。現代アートの価値の不明瞭さを口にする人もいれば、作品説明の重要性についての発言があったり、とっつきにくいが社会的なテーマを扱うところが面白いなど、さまざまな意見がありました。美大生にとっては、美術を学ぶことによって失われてしまったかもしれない鑑賞について考えるきっかけになったようです。

子どもたちは初めての美術館訪問だったので、それだけでも特別な体験になった様子でした。大人たちにとっても、美術に専門的に関わっている人とそうでない人など、他分野の人が一緒に同じアートを鑑賞し、それぞれの意見や感想を対話を通して共有することで、新しい気づきや見えてくるものがありました。

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ティータイムでの団らん風景。Photo by Takaaki Asai

テキスト:清水美帆

参加者の声

男の子が絵の中にハルシャ自身が描かれているという説明を聞いて「え、絵って自分の事も描けるの?」とびっくりしていたことが印象的でした。

サポートスタッフ

普段美術を専門的に勉強しているので、違う視点からの絵の見方がとても新鮮でした。特に笑顔の人がほとんど描かれていないので、色は明るいのになんだか暗い印象を受けたという意見は衝撃的でした。

美大生
関係団体
  • 展覧会について(森美術館ウェブサイトより)
    N・S・ハルシャは1969年、南インドの古都マイスールに生まれ、現在も同地に在住し活動しています。インドの現代アートは近年の急速な経済成長や都市化とともに、国際的な注目を浴びていますが、N・S・ハルシャもこの10年間、世界各地で開催される国際展に数多く参加し、作品を発表しています。その一方で、南インドの伝統文化や自然環境、日々の生活における人間と動植物との関係など、自らを取り巻く「生」と真摯に向き合いながら、独自の立ち位置を確立してきた作家でもあります。 N・S・ハルシャの初のミッド・キャリア・レトロスペクティブとなる本展では、1995年以降の主要な作品を網羅しながら、現実世界の不条理、具象と抽象、イメージの繰返しなど、彼の実践に一貫して見られる関心を掘り下げます。森美術館では、これまでも中国、アフリカ、インド、中東など成長目覚ましい地域の現代アートの現状を紹介しつつ、アジアの中堅作家の個展を開催していますが、本展はこの個展シリーズのひとつに位置づけられます。https://www.mori.art.museum/contents/n_s_harsha/
  • NPO法人日向ぼっこ
    児童養護施設の巣立ちを控えた子どもや巣立った人たちが集う場所の運営、各種相談に対応する「居場所・相談事業」と、社会的養護の現状を周知するための「当事者の声、集約・啓発事業」を二つの柱とする特定非営利法人。日向ぼっこサロンを拠点とし、利用する社会的養護の当事者ら自らが自己肯定感を育むこと、社会的養護の下で育った経歴が不利とならない社会を目指し活動している。http://hinatabokko2006.com/