Report Report|新たな鑑賞の楽しみ方をみつける、 アートと心のインスピレーション・プログラム アトリエ・エー赤荻 徹さん

コレクティヴ・アメイズメンツ・トゥループ [CAT] のプログラムで開催したインスピレーション・ツアーを受け、アトリエ・エーを主宰する赤荻 徹氏によるミニレポートをお届けします。


さまざまな背景の人たちが混ざり合う、アート体験「CAT」

アトリエ・エーは、2003年から東京・渋谷区で活動する、ダウン症、自閉症の子どもたちを中心としたアートクラス。

アトリエ・エーとArts Initiative Tokyo(AIT)のdear Me、オランダのMuseum of the Mind、3者が協働するアートプロジェクトは、「CAT(Collective Amazements Troupe:集団で体験するひとりひとりの驚き)」として、これまで東京国立近代美術館のインスピレーション・ツアー(2022)、音楽と瞑想を取り入れた表現のワークショップ「マーク・トゥー・ザ・ミュージック」(2023)を開催してきた。

CATは、障害のある人、ない人、子供、大人、さまざまなバックグラウンドを持つ人が一緒に過ごす機会を作り、そこでの新しい楽しみ方を提案するプロジェクトだ。2003年からさまざまな人が一緒に過ごす機会を作り続けてきたアトリエ・エーのこれまでの活動と、CATはその目的が一致する。

加えてCATは、新しい障害者支援のかたちを作る大きな可能性を持っている。アトリエ・エーの活動で、僕はダウン症や自閉症のある参加者が描く絵やパフォーマンスの魅力もさることながら、参加者の普段の過ごし方やコミュニケーションに現れるそれぞれの人間的な魅力に取りつかれている。そして、その人間的な魅力をたくさんの人と共有することが、これからの未来に向けて、新しい障害者支援のかたちになるのではないかと考えている。それぞれの人間的な魅力を共有する機会として、CATに参加すること、CATを発信することには大きな価値があり、それはアトリエ・エーが社会において果たすべき役割であるとも考える。


新たな楽しみ方をみつける、インスピレーション・ツアー

今回のアーティゾン美術館の企画展「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて」とコレクション展「マティスのアトリエ」のツアーには、アトリエ・エーからの7人に加えて、一般公募から目の見えない人や耳が聴こえにくい人も参加した。僕はファシリテーターや企業サポーターと一緒に、主に自閉症のある3人とチームを組んだが、これまでのCATと同じように、参加者それぞれの人間的な魅力にふれて、美術館の新しい楽しみ方を得る鑑賞体験となった。

Lくんは、毛利悠子の「鬼火」という暗闇の中の光と音のインスタレーションが大のお気に入りで、「きもだめし」「へや」と周囲に声をかけて、僕たちを何度も暗闇の中に誘導した。Yくんは、マティスの「石膏のある静物」を指差しながら、この絵に秘められた架空の不可解な伝説を語った。Rくんは、気に入った作品にたっぷり時間をかけて深く観察(ディープ・ルッキング)した後、作品タイトル、制作年、作者のキャプションも同じくディープ・ルッキング。それぞれの鑑賞方法は、僕にとってすべて新しく、それはとても刺激的だ。

それぞれの鑑賞方法を倣って新しい楽しみ方を得る一方で、僕はその鑑賞方法について自閉症スペクトラムの特徴というよりも、彼らそれぞれの普段の過ごし方やコミュニケーション、つまりそれぞれの生の在り方が導いた楽しみ方ではないかと考えていた。ひとりひとりには違いがあり、例えばそれは、僕の鑑賞方法を他の人に共有した場合と、それぞれの楽しみ方という意味では変わりがないように思う。楽しみ方には違いがあるということを、こうした機会に参加することで経験し、多くの人が共有することはとても大切なことだと思う。

僕は、それぞれの鑑賞方法に倣った楽しみ方を実践しながら、この時間やこの感じこそが、まさに障害や年令、性別、さまざまなバックグラウンドを超越した「CAT(Collective Amazements Troupe:集団で体験するひとりひとりの驚き)」であり、このプロジェクトの本質だと考えていた。そして繰り返しになるが、さまざまなバックグラウンドを超越して、それぞれの人間的な魅力を共有する、こうした機会が増えることが、いつか新しい支援のかたちにつながると確信し、未来に向けて背中を押された気持ちになった。


活動を継続してみて、感じたこと 

最後に「過去2年間CATを実施してきて、参加者の変化は?」と質問を受けた。確かに継続して参加してきた人たちは、当初と比べて、それぞれの鑑賞方法や鑑賞のペース、ファシリテーターとの関係性をすっかり確立したように見えた。
一方、主催者側である僕たちも、ファシリテーターや企業サポーターも含めて、同じように参加者との関係性を確立することができたと思う。おたがいが関係性を確立できたことが、数回にわたって実践したことによる大きな変化であり、それはとても重要なことである。

でも、そうしたそれぞれの変化を振り返ることよりも、CATに参加した誰もが、「楽しかった」「面白かった」「また参加したい」と揃って話していたことが、このプロジェクトの総括であり、未来に向けた可能性を現わしているように思う。こうした日常生活の延長線上にある、創造性に富んだ新しい支援のかたちをこれからも模索していきたい。

テキスト:赤荻 徹(アトリエ・エー主宰)     写真:阪本 勇

プロフィール
  • 赤荻 徹
    2002年よりダウン症の子どもたちのサッカーチーム「ABLE FC(エイブル・エフシー)」のコーチを務め、2003年よりダウン症や自閉症の子どもたちを中心とした絵の教室「アトリエ・エー(atelier A)」を主宰。2006年アール・ブリュットを特集した雑誌「←→special」編集発行、アトリエ・インカーブ画集「ATELIER INCURVE」編集。日本財団DIVERSITY IN THE ARTS主催「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」展(2017年)リサーチキュレーター、「ミュージアム・オブ・トゥギャザー・サーカス」(2018年)および「TURNフェス5」(2019年、東京都、アーツカウンシル東京ほか主催)のトークセッションに参加。
    Drawing by Ryunosuke (atelierA)
  • アトリエ・エー(atelier A)
    ダウン症、自閉症の子供たちを中心とした絵の教室。赤荻徹・洋子夫妻により、2003年より東京・渋谷区で月1回開催。デザインやアートに関わるスタッフを中心に、一緒に楽しみながら、子供たちが制作する環境づくりを行う。限りなく自由に、子どもたちとスタッフが互いに刺激しあい、友情を育み、それぞれに新しい発見をする場として、また、年齢や障害の有無を問わず、たくさんの人との出会いを経験するための開かれた活動を目指している。
    instagram @atelier_a2003