Report Column|医療と福祉のまち、ドイツのベーテルを訪れて

「芸術家の家リュッダ」の内観 Photo: Rika Fujii
「芸術家の家リュッダ」の内観 Photo: Rika Fujii

ドイツのビーレフェルト近郊にある、ベーテルと呼ばれる医療・福祉施設を訪問しました。その規模は大きく、医療と福祉のまちとしてヨーロッパはもとより世界でもその名は知られています。その理由を探るべく、ベーテルを訪ねました。

 

ベーテルは、どんなところ?

ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州ビーレフェルト近郊にある、ベーテルと呼ばれるコミュニティーは、世界でも注目されている、福祉と医療のまち。

トイトブルクの森に面したベーテルは、もともとは1867年に、てんかん患者のために創立された病院と施設。正式名称は、第2代施設長フリートリッヒ・フォン・ボーデルシュヴィング牧師の名前を冠した、フォン・ボーデルシュヴィング総合医療・福祉施設ベーテル(Die von Bodelschwinghschen Stiftungen Bethel/フォン・ボーデルシュヴィング慈善団体ベーテル)。

幾多の困難の歴史を乗り越え、150年近く町全体で医療と福祉の充実に取り組んでいます。各種病院や特別支援学校、高齢者向け施設ほか、地域の資源や特色を生かした工芸品や織物などをつくる工房もあり、特に医療の分野では、てんかんの専門施設ほか、先進的な医療施設が数多くあります。

農作業から古書修復など職業の種類も2000種以上と幅広く、職業訓練も充実しているため、障害のあるひともないひとも高齢の住民でも、自立をしながら安心して暮らすことのできる、機能的な医療と福祉のシステムを備えています。そんなベーテルには、てんかんや精神疾患のある人ほか色々な人が生活をしていて、ベーテルの医療従事者だけでも1万4千人を超えるといいます。

「障害のある人は、私たちの教授である」

ベーテルは、ヘブライ語で「神の家」を意味しており、旧約聖書に登場する神の言葉の一節に「ベーテルにのぼって、そこに住み着きなさい」「そこに祭壇をつくりなさい」というものがあります。この聖書の言葉からこの地はベーテルと呼ばれるようになり、教会や施設ができたと言います。

ベーテルの父と呼ばれた、フリードリヒ・フォン・ボーデルシュヴィングは、障害のある人たちに寄り添いながら口癖のように言っていた言葉があります。これは、ベーテルの人々にとって大切な、そして、当たり前の考えとなっているそうです。

障害のある人たちは私たちの教授です。彼らは私たちに、愛するということを教えてくれるのだから。 

芸術家の家 リュッダ

ベーテルのまちなかには、「芸術家の家 リュッダ」と呼ばれるアトリエがあります。庭やギャラリー、オフィススペースがあり、アーティストの作品の展示のほか、子どもたちやお年寄り、障害のある人もない人も参加できる、様々な人たちと協働するワークショップが数多く行われています。

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ベーテル 芸術家の家 リュッダの前  Photo: Rika Fujii

2019年で50周年を迎えたリュッダ。現在ディレクターを務めるのは、ユルゲン・アインリッヒさん。リュッダを快く案内してくれました。

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Photo: Rika Fujii

リュッダでは作品を展示するギャラリーのほか、陶芸のためのスタジオを構え、緑いっぱいの庭でのワークショップや展覧会を多く開催しています。2007年よりアインリッヒさんがディレクターを務め、リュッダの活動を通じた教育的アプローチによるソーシャルワークの実践と、芸術と社会との対話による創造的な場作りの可能性を探っています。

アインリッヒさんはかつて芸術療法と美術教育、ファインアートの両分野を学び、現在も自らアーティストとしても活動している珍しい経歴の持ち主。(https://kulturoeffner.de/events/event/939)
人の内なる衝動から生まれる表現、秘められた表現に関心を持ち、たとえ日常で支援が必要な人や弱い立場であっても、優れた芸術を生み出す芸術家は対等に評価されるべきだ、と話してくれました。

展示されていたギャラリースペースでの展示では、著名な現代美術作家の作品も、障害のある作家の作品も、子どもの作品も一緒に飾られ、キャプションもありません。

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Photo: Rika Fujii

また、リュッダでは滞在アーティストにそれぞれ街なかにある一軒の家ごと任せ、そこで生活をしながら創作活動をすることもあるといいます。
そのほか、さまざまな特性のあるアーティストの受け入れや、アーティストと市民とのワークショップも盛んで、子どもや高齢者、住民との協働により広く表現活動の場づくりを幅広く行なっています。

ディアミーの活動とも親和性を感じる、非常にひらかれた雰囲気のリュッダ。今後もベーテルやリュッダの取り組みに注目していきたいと思います。

*リュッダは聖書の中に出てくる地名だが、ベブライ語で悩みを溶かす、という意味もある。
*ベーテルについて:もともとは1867年に、てんかん患者のために創立された病院と施設。正式名称は、第2代施設長フリートリッヒ・フォン・ボーデルシュヴィング牧師の名前を冠した、フォン・ボーデルシュヴィング総合医療・福祉施設ベーテル(Die von Bodelschwinghschen Stiftungen Bethel/フォン・ボーデルシュヴィング慈善団体ベーテル)。幾多の困難の歴史を乗り越え、150年近く町全体で医療と福祉の充実に取り組む。各種病院や特別支援学校、高齢者向け施設ほか、地域の資源や特色を生かした工芸品や織物などをつくる工房もあり、特に医療の分野では、てんかんの専門施設ほか、先進的な医療施設が数多くある。

テキスト:藤井 理花