Report Workshop & Performance|川村亘平斎と子どもたち《二葉天狗とおおぐい海獣》オリジナル影絵パフォーマンスwith AFRA

個性あふれる子どもたちとアーティストが協働し、みんなで未来を考える『dear Me / ディア ミー』のプログラムの一環で、3月24日に影絵師/音楽家の川村亘平斎さんと子どもたちによるオリジナル影絵パフォーマンス《二葉天狗とおおぐい海獣》を上演しました。スペシャルゲストに、ヒューマン・ビートボックスの日本のパイオニア的存在であるAFRAさんも参加しました。このパフォーマンスは、小平市の二葉むさしが丘学園で2月に2日間に渡り行われたワークショップを元に、オリジナル影絵パフォーマンス作品として生まれました。

 

光と影のパフォーマンスを観て、その効果を知ろう

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Photo by Yukiko Koshima

2018年2月、子どもたちと2週に渡って影絵のワークショップを行うため、影絵師/音楽家の川村亘平斎さんが小平市の二葉むさしが丘学園にやってきました。
川村亘平斎さんは、インドネシア・バリ島に渡り、インドネシアの伝統芸能である影絵を学び、これまでアジアの国々ほか、日本各地でパフォーマンスや、子どもからお年寄りまでの地域住民と一緒に、その土地にちなんだ物語を影絵作品に取り入れるワークショップを行っているアーティスト。そして、ガムラン奏者のミュージシャンでもあります。

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Photo by Yukiko Koshima

まず初めに子どもたちは、みんなで川村さんの影絵パフォーマンスを鑑賞しました。大きなスクリーンに、川村さんが創りだす音楽と一緒に、さまざまな影と光が映し出されました。

初めてみる音と光のパフォーマンスに、子どもたちは驚いた表情や、ワクワクした表情。パフォーマンスの後は、川村さんからの「みんな、裏側に来てみてもいいよ」という声かけで、裏側に回って舞台裏を見せてもらいました。

「なるほど、こんな風になっているんだ!」

まるで魔法使いのように、絶妙な光と影の演出を一人で手掛けてしまう川村さんのパフォーマンスを間近に見て、子どもと一緒に観ていた大人スタッフも改めて驚かされました。


将来なりたいものや好きなことを考えて、影絵の人形をつくろう!

Photo by Yukiko Koshima

Photo by Yukiko Koshima

影絵の仕組みに触れたあとは、工作の部屋に移動し、川村さんの影絵人形や、インドネシアの師匠が作った人形を子どもたちに紹介しました。牛革で出来ているという、カラフルで珍しい人形をみんな手にとって興味深そうに眺めていました。どれも丁寧に作られていて、手足の関節も滑らかに動きます。

そして、いよいよ自分たちの人形作り!工作用紙と絵の具を使って、それぞれ変身してみたいものや将来なりたいもの(憧れる職業でも、想像上のことでも)など未来をイメージし、それを人間以外の生き物に例えて影絵人形を作りました。

誰に言われることもなく、カラスのお腹をおもむろにカラフルに塗り始めた、おーちゃん(8歳)。カラスの羽根の絶妙な色を普段からよく観察していることが分かります。好きな動物がたくさんありすぎて、どれにしようかずっと考えていた子や、どんどん手を動かしていくつも作り始める子、それぞれのペースで制作が進みました。

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カラス(オス)のお腹の色を塗る Photo by Yukiko Koshima

人形を作り終えた子どもたちは、川村さん演じる猿のキャラクター「ニシオカ」との即興の掛け合いで影絵の仕組みや面白さを体感しました。
3匹の猫の人形を作成した、きっきちゃん(7歳)とのやり取りをご紹介。予測のつかないやり取りに、思わずみんな笑ってしまうシーンも。

猿のニシオカさん(以下、ニ):「お名前は?」
きっきちゃん(以下、き):「ニャンニャン」
ニ:「あなたニャンニャンさん。では、あなたは?」(後ろの人形を指して)
き:「ニャンニャン」
ニ:「ニャンニャン。その後ろのあなたは?」(さらに後ろの人形を指して)
き:「ニャンニャン」
ニ:「! 3人まとめてニャンニャンさんなんだね!
   じゃあ、ニャンニャンさん、って呼んだら誰が答えるの?」
き:「 … 」(後ろの2匹を揺らす)


ふしぎな影絵に変身してみよう

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サルのニシオカとAFRA Photo by Yukiko Koshima

2週目のワークショップでは、スペシャルゲストとしてヒューマン・ビートボックスの日本でのパイオニアとして知られるAFRAさんも登場しました。パフォーマンスのデモンストレーションでは川村さんの影絵に、声と身体から生み出されるAFRAさんのリズムが加わり、躍動感あふれる音と光が会場を包み込みました。

この日は主に、前回作った影絵人形を使い、子どもたちが自分で考えたキャラクターに変身するシーンの練習をしました。また、光と影を使った遊び(猿のニシオカさん曰く、修行)を体験。小さくなってコップを通り抜ける術や、2人で光の玉をキャッチボールする術など、色々な術を習得していきました。

ひとりひとり、変身の前のかけ声や、変身の呪文も考えました。
名前はまだないコウモリに変身した男の子、ひろくん(8歳)とのやりとりです。

猿のニシオカ(以下、ニ):「では、変身の呪文とポーズをお願いします。」
ひろくん(以下、ひ):「アブラカタブラ」
ニ:「あれれ、羽根が生えて来ちゃったね。もう少し呪文を唱えてみようか。」
ひ:「アブラカタブラ!!!」

AFRAさんは、それぞれの変身シーンに合わせて即興で音をつけていき、迫力のシーンが次々に演出されていきました。今回の2回のワークショップで練習した成果は、3月24日に行われたパフォーマンスで発表しました。


パフォーマンス作品《二葉天狗とおおぐい海獣》

川村亘平斎さんとの今回の影絵芝居ワークショップのアイディアのもとは、インドネシアの古典影絵【ワヤン・クリット】で使われる物語【マハーバーラタ】。古代インドの宗教的・哲学的・神話的 叙事詩【マハーバーラタ】は、5人の正義の王子と、それを快く思わない100人の悪の王子達との間で繰り広げられる大戦争の物語群。1話完結で語られるそれぞれの物語には、スーパーヒーローや巨大な魔神、怪物が登場し子どもから大人まで楽しめるエンターテインメントになっています。影絵を見る子どもたちは、自分たちを物語に登場するヒーローと重ね合わせることで、夢や希望、その奥に流れている深い哲学と出会うことになるのです。

この【マハーバーラタ】の構造をもとに、設定を、今回ワークショップを行った二葉むさしが丘学園の子どもたちが住む【小平】に置き換えて影絵芝居を上演しました。

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海獣キャメロンと、アカメガネ博士 Photo by Yukiko Koshima

小平市は、名前の通り平らな土地で知られ、昔は川も水源もなかったため、人が住めなかった土地。そこに江戸幕府の命で、玉川庄右衛門と清右衛門の兄弟が水量が豊富な多摩川から水を引いて約43キロに渡る「玉川上水」をつくり、人々の暮らしや文化の発展に繋がりました。当時、機械がまだない時代を考えても、高低差の少ない土地で水を引くことは大変なことで、玉川上水は世界に誇れる立派な上水路だったといいます。このように「水」と密接に関連している小平。その土地にちなんだ物語をパフォーマンス作品《二葉天狗とおおぐい海獣》として、古民家スペース東京おかっぱちゃんハウスにて子どもたちと一緒に上演しました。

登場するのは、東京湾に住むおおぐい海獣「キャメロン」と、彼女に恋する悪の科学者「アカメガネ博士」。東京湾に謎の島がある、という噂を聞きつけて偵察に出掛けたサルのニシオカが見たのは、島ではなくおおきな海獣キャメロンでした。お腹を空かせたキャメロンはニシオカを発見するやいなや、街を飲み込みながら西へ西へどこまでも追いかけてきます。困ったニシオカは、高尾山の天狗に相談します。そして、子どもたちのキャラクターが高尾山の天狗弟子である「二葉天狗」として登場し、海獣キャメロンと闘い、街を救う物語。

川村さん演じるさまざまなキャラクターと子どもたちのやり取りは、リハーサルごとに新たな表現を引き出し、本番の予想もつかない展開には、観客もスタッフもみんながドキドキ、引き込まれる物語になりました。

AFRAさんは、パフォーマンス中に録音した子どもたちの声を即興でリミックスし、ユニークなビートを作り出していました。

リハーサル前には、物語のあらすじを書いた紙に一生懸命メモやマーカーを引く子どもたちの姿も見られ、自分たちの出番の前には緊張のあまり、「人」という文字を手のひらに何度も書いて飲む込む子どもたちの姿も。他の子どもたちも同じように真似をして、緊張が隠しきれない様子。

いよいよ二葉天狗の登場シーン。これまでの練習を生かしながら、即興のやり取りを取り入れる子もいて、みんなそれぞれ頑張って演じてくれました!子どもたち演じる二葉天狗の活躍で、無事に海獣キャメロンを倒すことができ、海獣だったキャメロンは美しい天女の姿に戻り、パフォーマンスは終了しました。

パフォーマンスの終演後、子どもたちは大きな拍手で迎えられ、感想も自分たちの言葉で発表してくれました。
Photo by Yukiko Koshima

影だったのであまり緊張せずパフォーマンスができた、という子や、緊張したけれどいままでで一番うまくできた、という子、また、これをきっかけに将来は演劇にも興味を持ったという子どももいて、会うたびにこちらを驚かせてくれる彼らの姿は見ていて頼もしくさえ感じました。

参加してくれた子どもたち、サポートをしてくだった皆さん、本当にありがとうございました!
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「二葉天狗とおおぐい海獣」

あらすじ

 

ある日、「東京湾に謎の島が現れた」という噂を聞いたサルのニシオカは海に向かった。ニシオカが島だと思っていたのは、おおぐい海獣・キャメロンと悪の科学者・アカメガネ博士だった。お腹を空かせたキャメロンは、ニシオカを食べようと襲いかかってきた。ニシオカは必死で逃げるが、キャメロンはどこまでも追っかけてくる。

困ったニシオカは高尾山に住む天狗に相談する。相談をうけた高尾山の天狗は、ふむふむと考えて答えた。「小平に住む弟子の二葉天狗たちであればキャメロンを止められるであろう。」

 

高尾山の天狗とニシオカは二葉天狗たちの元へ向かった。海獣退治に集まった二葉天狗たちは、神通力を使って強力な動物に変身してキャメロンと対決した。激しい戦いの末、とどめを刺されたキャメロンは美しい天女に変わった。天女はその昔、天界でつまみ食いをした罰で海獣に変えられていたのであった。

 

天女は天界からは二葉天狗たちをずっと見守ることを約束して空へと帰っていった。

 

めでたし めでたし

このプロジェクトを通じて、”自分”を通じて表現することの面白さを子どもたちは体験することができたようです。また、たくさんの大人がこのプロジェクトに本当に楽しんで関わってくださり、人生を楽しむ大人の良いモデルを子どもたちに見せられたのかな、と思います。
                       竹村 雅裕さん(二葉むさしが丘学園)

▷二葉むさしが丘学園さんのブログレポートはこちら(外部リンク):
http://futabamusashi.hatenablog.com/entry/2018/03/29/003000

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ワークショップとパフォーマンス映像

ワークショップとパフォーマンスの映像はこちらから観ることができます。

●ダイジェスト版 (4’30”)

●ロング版 (15’28”)

テキスト:藤井 理花 (AIT)

 

プロフィール
  • 川村亘平斎 かわむら こうへいさい(影絵師/音楽家)
    平成28年度第27回五島記念文化賞美術新人賞受賞(2016)。
    インドネシア共和国・バリ島にのべ2年間滞在し、古典影絵【ワヤン・クリット】と伝統打楽器【ガムラン】を学ぶ(2003・2017)。日本各地に赴き土地の人たちとの交流やワークショップを通じて、土地に残る物語を影絵作品として再生させ、現代日本と伝統的な感性をつなぐ新たな「芸能」のカタチを模索する。近年の活動として、「ヘビワヘビワ」(2015/福島県福島市)、「BAM BOO NEST」(2016/山形ビエンナーレ)などを製作。アジアを中心に多くの国で、影絵と音楽のパフォーマンスを発表し大きな反響をうけ、Pesta boneka(2016/ジョグジャカルタ)Pesta Raya(2017/シンガポール) などに参加。そのほか、シリーズ企画「ボクと影絵と音楽」(2009~)【じ め ん】(飴屋法水作 2011/フェスティバルトーキョー)、「サントリー美術館影絵WS」(2014/六本木アートナイト)ほかを制作。ソロユニット「TAIKUH JIKANG滞空時間」(2009~)では東南アジアツアーや細野晴臣氏のイベントなどに参加。http://taikuhjikang.com/kawamurakoheisai/
  • AFRA あふら(ヒューマン・ビートボックス演奏者)
    1996年にニューヨークのセントラルパークで見たThe RootsのビートボクサーRahzel(ラゼル)のパフォーマンスに衝撃を受け、独学でビートボックスを始める。高校卒業後NYへ単身渡米。映画「Scratch」出演や、唯一の日本人として出演したビートボックス・ドキュメンタリーフィルム「Breath Control」などを通して、国内外のコアなファンに強烈に存在をアピール。2003年に日本人初のヒューマン・ビートボックスアルバムとなる1stアルバム『Always Fresh Rhythm Attack』を、2004年には2ndアルバム『Digital Breath』をリリース。2009年、楽器を使わず身体から出る音のみで作られたアルバム「Heart Beat」をリリース。2012年、曽我部恵一とのアルバム「listen 2 my heart beat」をリリース。海外の活動も広く行い、スペイン「SONAR 2005、2006」、オーストラリア「BIG DAY OUT 2006」、ノルウェー「numusic2006」など世界各地の音楽フェスティバルに出演するほか、FUJI XEROX のテレビCMや、adidas Originals 09SS 全世界キャンペーンCMなどにも出演。