(日本語) Column | オランダリサーチ ミニコラム Beeldend Gesproken訪問

2023年7月に、AITスタッフがオランダを訪問し、芸術、福祉の領域でアートとメンタルヘルスの実践を行う美術館や福祉団体、アートスペースを訪問しました。このミニコラムでは、スタッフがリサーチしたアートスペース「Beeldend Gesproken」について報告します。

社会的企業としてのアートスペース

アムステルダム市内のトラムの車庫だったレンガ造りの建物を活用した文化商業施設デ・ハレンを拠点とするアートスペース「ビールデント・ゲスプローケン(Beeldend Gesproken)」は、キュレーターのエスター・フォセン氏が立ち上げた社会的企業だ。ここでは、展示やイベントを行うプロジェクトスペースとアートレンタルを行う二つのスペースにより、アートを通してメンタルヘルスへの意識や関心を高める活動を行っている。訪問した時、展覧会を行うプロジェクトスペースのドアは開放されていて、入口近くには誰もが弾けるストリートピアノが置かれていた。奥には使わなくなったものを持ち寄って交換できる一角があるなど、誰もが気軽に入れる工夫が散りばめられている。

フォセン氏は、2010年以来、精神科医療やメンタルヘルスと芸術をつなぐプロジェクトを実施してきた。2020年までは、オランダの広大な森の中にあるメンタルクリニックにアーティストが滞在できるアーティスト・イン・レジデンスを運営し、滞在するアーティストがクリニックの患者や医療従事者との交流を通して作品の制作を行う場を創出してきた。 こうした活動の背景には、オランダにおいても現在でも根強く残る精神疾患への偏見を、アートを通して溶解していきたいという思いがある。

Beeldend Gesprokenは、英語ではVisually Spokenと訳すことができ、これを日本語にすると「視覚的に語る」となる。実際に、このアートスペースで紹介されている多くは精神障害や知的障害を持った人々のアート作品だが、フォセン氏は「障害」という言葉に人々の意識を向けるのではなく、障害を持っていてもなくても、作品自体が持っている「物語」に着目し、それがいかに魅力的に人々に語りかけることができるかを大事にしている。

また、フォセン氏いわく、オランダでは社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)への支援が充実しており「ビールデント・ゲスプローケン(Beeldend Gesproken)」もそうした社会的活動に賛同する個人や団体によって支援されている。アートレンタルで得た収入や作品販売の売り上げは、作品の制作者にその多くが還元される循環が生まれている。

フォセン氏は、現在は、Beeldend Gesprokenの活動のほか、オランダの病院のアートアドバイザーなども務めている。近年は、病院からの依頼で医療従事者向けにアート講座やワークショップを行うことも増え、多様な視点からメンタルヘルスを考える取り組みを行っている。

こうしたことからも、オランダの企業、行政、医療機関はその専門性の中に「芸術」を取り入れる必要性に対して高い意識を持っていることがうかがえた。

訪問先 Beeldend Gesproken(destination)
所在地 Hannie Dankbaarpassage 23, 1053 RT Amsterdam(オランダ)
訪問日 2023年 7月 27日(木)
意見交換参加者:エスター・フォセン(Beeldend Gesprokenディレクター)

テキスト:堀内 奈穂子