(日本語) dear Meではこれまで、時に鋭く社会を眺めるアートの思考に子どもたちが触れることで、複雑な世界を自分なりにとらえて表現するワークショップを実施したり、子どもを取り巻く社会課題を大人が考え共に考察することで、アートと福祉の協働を目指す場を作ってきました。
今、パンデミックによる見えないモノへの脅威や価値観の揺らぎによって心の健康が揺さぶられる中、dear Meでは、アートの体験がどのように「メンタルヘルス」や「ケア」と結びつくかを考えたいと思っています。このオンラインシリーズは、その最初のブレインストーミングの場として、大人と子どもに向けて行われました。
今日はAITが主催する、Total Arts Studies 2020 dear Meゼミのシリーズより、第2回講座のミニレポートをお届けします。
(日本語)
現代アートの教育プログラム「Total Arts Studies 2020」dear Me ゼミ「見えるものと見えないものからアートとココロを考えるオンラインシリーズ:多様な当事者とアートの学び・体験を考察する」より
日時:2020年11月12日(木)19:00-20:30
講師:堀内奈穂子(AIT、dear Me ディレクター)
場所:オンライン(Zoom)
第2回目のdear Meゼミでは、近年耳にする「社会的処方(social prescribing)」と、医療/福祉に活用されているさまざまなアートプログラムの事例を学びました。
イギリスでは、近年「接続社会、孤立に立ち向かうための戦略」が発表され、2023年までに「社会的処方」を医療制度として全国に普及する目標が定められました。その中で、「社会的処方」とは、社会的に孤立した状況にある人や、経済・雇用・住宅の問題によるメンタルヘルスのケアを必要とする人などが、参加型の芸術、運動、関係性を育むプログラムなどを行う個人や団体の支援を受けることで、彼らの健康とウェルビーイングの改善を目指す包括的な実践としています。日本では、病気や困難を抱える孤立高齢者に地域とのつながりを支援する「社会的処方」のモデル事業を厚生労働省が年内に始めるとしています。
医療と福祉にアートが活用されている海外の具体例として、病院のインテリアにアート作品を取り入れたイギリスのChelsea and Westminster Hospital NHS Foundation Trustの事例やアメリカのRxARTの活動のほか、カナダの3美術館が連携しアートセラピーを提供する「Our Natural World」や、メンタルヘルスの課題を抱えた失業中/休職者に文化活動を提供するデンマークの「Culture Vitamins」、鎮痛剤に起因する薬物使用障害に苦しむ人をアート鑑賞によって支援するCurrier Museum(アメリカ)の「Art of Hope」が紹介され、また、AITが2020年に行った、統合失調症等を抱えた当事者の地域活動拠点浦河べてるの家(北海道)、時代美術館(Times Museum、中国)との協働アーティスト・イン・レジデンスプログラム(AIR)では、ダンサー・振付家のアーガオ(Er Gao、中国)とべてるのメンバーによるダンス・ワークショップの取り組みも紹介されました。
一方で、アーティストのタニア・ブルゲラ(Tania Bruguera、キューバ)の唱えるアルテ・ウティル(有用芸術)の概念を取り入れ、障害を持つ人や高齢者など多様な参加者を包摂する鑑賞プログラムを提供しているオランダのヴァンアッベ市立美術館(Van Abbemuseum)のチャールズ・エッシュ(Charles Esche)館長は、かつてのSEA(ソーシャリー・エンゲイジド・アート)が社会を理想的な状態とする試みだったことを省み、「バランスを維持したり、全てを正しく設定することが今日の芸術の仕事であるかどうかはわかりません」と述べています。アートの役割は、倫理的に物事を善くするのではなく、社会の複雑性を可視化することではないか、という視点も紹介されました。
今日の社会的危機の状況により、さらにメンタルヘルスが身近な問題として提議され、上述のようなニーズと活動の増加が予想される中、アート体験が脳や精神へもたらす効果などが今後実証化されてゆくのではないか、とレクチャーは締め括られました。
テキスト:王 聖美 (Total Arts Studies 2020 サポーター)
(日本語) 近年、特にヨーロッパやアメリカでは、医師が患者の心身の健康回復を促進する治療の一環として、美術館への訪問を「処方」するなど、芸術の体験が特に心の健康効果に有用だという実証がされています。また、国内外の多くの美術館では、障がいがある人々との対話プログラムや、アルツハイマーの当事者とその家族向けの鑑賞メソッド、また、入院中ほか美術館にアクセスしにくい人々に向けたロボットを通した美術鑑賞など、多様な人々に向けて、より開かれたプログラムを創出しています。 コロナ禍において、多くの美術館やアーティストが一時的に活動の停止が余儀なくされた中で、一部では積極的にオンラインを活用をしながらも、鑑賞や対話の場は現在、どのような展開を見せているのでしょうか。
本レクチャーでは、近年の「アート処方」のさまざまな取り組みと共に、美術館やアーティストによる多様な当事者に向けた鑑賞プログラム、そして、AITが2019年に精神障害などを抱えた当事者の地域活動拠点「ベてるの家」と協働して行ったアーティスト・イン・レジデンスを紹介しながら、アートが本来はダイナミックに動き続ける私たちの心や記憶にどのように作用し得るのか、考えます。
[ キーワード ]
・美術館と多様な鑑賞プログラム
・コロナ禍のオンラインの学び
・アート処方
・アートと精神
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(日本語) 堀内奈穂子(AIT、dear Me ディレクター)(日本語) エジンバラ・カレッジ・オブ・アート現代美術論修士課程修了。2008年より、AITにてレジデンス・プログラムや展覧会、シンポジウム、企業プログラムの企画に携わる。ドクメンタ12マガジンズ・プロジェクト「メトロノーム11号 何をなすべきか?東京」(2007)アシスタント・キュレーター、「Home Again」(原美術館、2012)アソシエイト・キュレーターを務める。国際交流基金主催による「Shuffling Space」展(タイ、2015) キュレーター、「Invisible Energy」(ST PAUL St Gallery、ニュージーランド、2015)共同キュレーター。アーカスプロジェクト (2013) 、パラダイスエア(2015、2016)、京都府アーティスト・イン・レジデンス事業「大京都in舞鶴」(2017)のゲストキュレーターを務める。 2016年より、AITの新たなプロジェクトとして、複雑な環境下にある子どもたちとアーティストをつなぐ「dear Me」プロジェクトを開始。アートや福祉の考えを通した講座やワークショップ、シンポジウムを企画する。