イギリスのアーティストによるワークショップ「Translating Cities―街の翻訳」

DM_TC_0097-860x573 ワークショップの様子から Photo by Yukiko Koshima
2017年3月に代官山ヒルサイドテラスにて、2歳から11歳の子どもたちと大人に向けた造形ワークショップを行いました。本企画は、「現代陶芸」の分野で活動するイギリス人のアーティスト、エヴァ・マスターマンとジャクソン・スプラーグの二人が講師を務めました。彼らは、AITが行うアーティスト・イン・レジデンス・プログラム(海外芸術家招聘プログラム)で、ロンドンの歴史あるアートセンター、カムデン・アーツ・センターを通じて2ヶ月間、日本に滞在したアーティストです。

 

CLAY/PLAYー街の中にある、いろんな形を見つけて自分だけの作品を作ろう!

このワークショップでは、街の中に隠れた様々な模様やかたちを見つけ、表面を平らにした陶芸粘土に型取って石膏を流し、オリジナルの立体作品を作りました。参加したのは、子ども13名、大人12名の9組です。

ワークショップで大切にしたことは二つ。一つは、身体や頭を使って素材そのものに触れ合い、楽しむこと。そして、二つ目は、その体験を通じて、参加しているみんなの考えを知って想像を広げたり、発見を楽しみながら自由に自分だけのアート作品を制作すること。

それは、アーティストふたりの滞在のテーマでもある「CLAY/PLAY」という、素材に触れて自由に想像力を引き出す考えや、二人の創作の手法でもある、偶然性や素材そのものを生かすアイディアを生かして考えられたものです。

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Photo by Yukiko Koshima

さぁ、やってみよう!

はじめに子どもたちに向けて、AITのスタッフからアートの仕事やAITの活動について、そして、エヴァとジャクソンから作品や制作テーマについてのプレゼンテーションをした後、一日のワークショップの流れを簡単に説明しました。

工程が多くあったため、エヴァとジャクソンが各工程の初めに子どもたちの目の前でデモンストレーションを行い、目で見て学ぶことを体験できる工夫をしました。
説明が終わったら、いよいよワークショップの開始です!子どもたち一人一人にそれぞれ粘土が用意され、表面を平らにするために糸で粘土を切ります。それを手に外に出て、街の中に隠された、たくさんのカタチを探しに行きます。

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Photo by Yukiko Koshima

街路樹の表面や建築物のレンガ、床のタイル、落ち葉やコンクリートの凸凹など自然の中にある模様や人工の模様をあちらこちらから探し出し、思い思いに型どりました。

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Photo by Yukiko Koshima

「街の中にはいろんな模様が隠れているね」「あ!こんなところにも」

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Photo by Yukiko Koshima

「葉っぱのかたちを付けてみよう」「私も!」

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Photo by Yukiko Koshima

自然の木の枝の形をそのまま生かしたり、拾った石や葉っぱを乗せてみる子も。みんなのアイディアは尽きません。

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Photo by Yukiko Koshima

次に、土手をつけた粘土に水で溶かした石膏を流し入れます。石膏を扱うときは必ずビニール手袋をはめて、二人一組になって行います。

石膏を流し入れたら、強度をつけるため、ガーデニングなどでよく使われる網目のついた布を少し小さめに切り取ってそっと乗せ、石膏の中に沈めます。

ちょっと一休み

流し入れが終わったら、あとは石膏が固まるのを待ちます。待っている間にみんなで近くの西郷山公園でピクニックランチを楽しみました。公園の真ん中には3月初旬に咲く、ピンク色の桜の花がとても綺麗に咲いていました。子どもたちも駆け回って遊びました。

いよいよ仕上げ

公園のランチ休憩が終わって一息ついたら、いよいよ石膏を取り出します。一体、どんなカタチになるのでしょう。
粘土を剥がして、綺麗に水で流したら、ひとつひとつ、全く違うカタチが次々に浮かび上がりました!

さっきまでは凹んでいた部分が今度は盛り上がって、ユニークな形がたくさん見えてきました。

仕上げは、固まった石膏の彫刻の上に、アクリル絵の具などの画材で色をつけました。たくさんの色がから、好きな色をえらんで紙パレットに乗せていきます。

出来上がったら、みんなの完成した作品を一緒に並べて感想を共有しました。「今日は、楽しかった?」と聞いたジャクソンに、子どもたちはみんな「楽しかった!」と元気よく答えてくれました。

いろいろな緑色のグラデーションで色を塗った男の子に作品のタイトルを聞くと、「森への招待」と即座に答えてくれました。また、敢えて、素材の色を生かして色を塗らない、という選択をした子もいました。

作品全体をピンク色に塗った男の子は、「男だけど、ピンク色でもいいよね、いいよね?」と近くのスタッフに声をかけ、「いいね!」と会話をする場面も。何色かを混ぜ合わせた温かみのある絶妙なピンク色が、彼のこだわりだったようです。

今回のワークショップでは、制作の工程でその都度カタチを変えていく作品の姿に、子どもも大人も興味深い眼差しを向けていました。

 

初めて使う素材も多く、長時間に渡るワークショップでしたが、子どもたちは全員、最後まで集中して制作に取り組んでいました。創作では、石膏や粘土の使用にあたり、大人が安全性に注意しながら、なるべく子どもたちが自分で行うことを心がけました。

頑張ってくれた子どもたちの感想をシェアした後、彼らの出来立ての作品を前にエヴァとジャクソンはこう言いました。

「みんな、素晴らしいアーティストたちです!今日は参加してくれて本当にありがとう。」
最後に、子どもたちとの記念写真と拍手で、ワークショップが終了しました。
参加してくれた子どもたち、サポートの大人のみなさん、ありがとうございました!

テキスト:藤井 理花

当日の様子は、こちらの映像でも観ることができます


 

参加者の声

アートには不正解はなく、評価の対象でもありません。子どもたちには、ただ外に出て、素材に出合い、それらと遊ぶ本当の自由があります。幼少期のこういった経験はとても大切です。

エヴァ・マスターマン(アーティスト)

子どもたちに素材やプロセスを伝えることは本当に面白い。型取りで言えば、『ネガ』から『ポジ』に形が不思議に変化するのを体験できる。子どもたちにこうした体験を提供できるのは、アーティストとして非常に嬉しい。まるで一瞬だけ魔法使いになるようなもの。

ジャクソン・スプラーグ(アーティスト)

石膏の作り方とか、粘土の型に石膏を流し込むこととか、知らなかったから楽しかった。

子どもの声

すごく楽しかった。自分の作品がとても気に入った。

子どもの声

子どもたちがとてもワクワクして楽しんでいるのを見られて嬉しかった。作品を作るだけでなく、ランチを外で食べたのも楽しかった。

大人の声

千葉県の自然豊かなニュータウンの端に住んでいて芸術に触れる機会も乏しく、学校の図工程度しか創作をしていなかった子どもたちにとっては、またとない機会となって感謝しています。集中力が途切れず、やりきれた達成感も貴重な経験となった。

大人の声

参加人数や規模感がちょうど良かった。アーティスト二人の雰囲気がよく、英語でもあまり壁を感じずに子どもたちと楽しめる感じが良かった。あの年齢の子どもたちがかなり長い時間飽きずにできたのも、2段階に分かれた行程と、間のランチで身体を動かせたこと等様々な工夫が見られ、とても良かった。

大人の声
Profile
  • エヴァ・マスターマン / Eva Masterman
    1986年 イギリス・ウェールズ生まれ。領域横断的なワークショップやセミナー、執筆を通して、素材とプロセスを深く調査し、作品に投影している。制作と視覚芸術の境界、および先入観に焦点を当てたアプローチは、多くの学問領域をまたぐ「拡張領域」の中心にありながら、素材の特性を捉えた芸術彫刻でもある自身の彫刻的領域にまつわる批評的な言語を生みだしている。 http://www.evamasterman.com
  • ジャクソン・スプラーグ / Jackson Sprague
    1982年イギリス・デヴォン生まれ、ロンドン在住。スプラーグの作品は、美学と機能性、彫刻と絵画、あるいは永続的なものと短命的なものの緊張関係を扱っている。それは時として、家の間仕切りが絵画になり、壁に掛けられた絵画が同時に石膏で象られた彫刻となり、色が塗られたボール紙が陶芸作品であるといった方法で表現される。物理的かつ心理的な関係性のこうした曖昧性が、スプラーグの表現の特徴である。http://www.jacksonsprague.com/