Report 企業研修プログラム|哲学研究者と行く、お出かけ鑑賞ワークショップ「塩田千春展:魂がふるえる」

塩田千春《小さな記憶をつなげて》 dear Me 鑑賞プログラムの様子 Photo by Yukiko Koshima
塩田千春《小さな記憶をつなげて》 dear Me 鑑賞プログラムの様子 Photo by Yukiko Koshima

dear Meではこれまで、企業の社員研修の一環として、子どもたちとのお出かけ鑑賞プログラムも実施しています。このレポートでは、2019年8月に実施した「塩田千春展:魂がふるえる」(森美術館)での鑑賞プログラムのレポートをご紹介します。本プログラムは、16人の子どもや若者と20名の社員やファシリテーターが参加し、森美術館のラーニングチームの協力のもと、実施されました。

当日は、企業のさまざまな部署のリーダーとして普段仕事をするメンバーと子どもたちが小さなグループになり、dear Meのファシリテーターが伴走しながらじっくりと作品を鑑賞し、感想や体験を分かち合いました。さらに、ゲストに哲学研究の山森裕毅氏(大阪大学)を迎え、アートの体験を通して、参加者が日頃考えている疑問や発見を自由に共有する場もつくりました。

今回の取り組みは企業研修の取り組みとしてとてもユニークな試みであるといえますが、こうしたアートの鑑賞体験は、近年、海外ではストレスや不安を緩和する「アート処方」の一環としても取り入れられ、心や身体の健康にも寄与することがわかっています。芸術の体験や作品を通して多様な視点を学び合う時間は、日々の仕事のみではなく生活のウェルビーイングにもつながると考えられます。


どこの世界につながっているのかな?

アーティストの塩田千春さんは、目に見えない感情や記憶、繋がり、不安、夢など、かたちのないものを感覚的に体感できるような、空間全体を使ったインスタレーションや、生きる意味、魂などについて問いかける作品で知られています。

森美術館の展覧会では、「魂」をテーマにさまざまな作品を発表し、自身の闘病を通して生きることへの想いとともに、現代の治療プロセスに機械的に従うことでシステム化される身体と心の解離や違和感などを表現しています。

塩田千春《不確かな旅》2016/2019年 鉄枠、赤毛糸 dear Me 鑑賞プログラムの様子 Photo: Yukiko Koshima

はじめに、美術館のラーニングキュレーターより、この展覧会の概要や成り立ち、アーティストの塩田千春さんについて紹介しました。その後、AITより、今回の鑑賞ワークショップについてと、鑑賞のポイントを紹介。
展示室に入る前に天井から飾られていた大きなインスタレーション作品を見て、全員でウォーミングアップを行いました。色や形から、さまざまな言葉が連想されます。このように、ワークショップでは、ひとりひとり違った感じ方や、色々な見方を自由に共有して良いことを伝えました。

そして、いよいよ展覧会場へ。小さなグループに分かれて、ファシリテーターとともに、子どもと大人が一緒に印象を問いかけながら、想像を膨らませていきました。

塩田千春《小さな記憶をつなげて》2019年 dear Me 鑑賞プログラムの様子 Photo: Yukiko Koshima

子どもたちの言葉より

《不確かな旅》

・海に浮かぶ船、夕焼け。紅葉

・蚕。自分が繭になって包まれている感じ。

・きれいな血の色みたい。

・赤い蜘蛛の巣の中にいるみたい。

・赤い森の中のよう。

《小さな記憶をつなげて》
・記憶が濃いものが、糸が多く巻かれているのかもしれない。

参加した大人の言葉から
《不確かな旅》

・ヘンゼルとグレーテルの迷い込んだ不思議の森に思える。これから、ある世界に入り込む入口のよう。

今回、3歳から18歳までの、幼児から小学生、高校生、大学生ほか、年齢も背景も異なる、さまざまな場所から集まってくれた子どもや若者たち16人、そして、企業の社員のみなさんが、自由に作品を鑑賞し、感じた言葉を交換しました。

塩田千春展 dear Me 鑑賞プログラムの様子 Photo: Yukiko Koshima

塩田千春《内と外》2008/2019年 dear Me 鑑賞プログラムの様子 Photo: Yukiko Koshima


塩田千春展 dear Me 鑑賞プログラムの様子  Photo: Yukiko Koshima


塩田千春《時空の反射》2018年 dear Me 鑑賞プログラムの様子 Photo: Yukiko Koshima

子どもたちの言葉より
《静けさの中で》

・ひもは罠。泥棒線に見える。

・夜の演奏会。黒いひもと上の照明が、星空を表しているように見える。

・ピアノが全部は燃えていないし、鍵盤が少し残っているから、まだ弾けると思う。絶望的な感じはしない。

・赤はいい色、黒は悪い色。

・黒は怖い。

《時空の反射》

・(黒い糸の中のドレスを見て)結婚できなかった幽霊かもしれない。

《集積:目的地を求めて》

・鞄の階段。

・空港にいるみたい。鞄は空を飛んで遠くに行く。

・鞄を揺らしているのは幽霊。(思わず踊り出す)

参加した大人の言葉から

《集積:目的地を求めて》

・カバンの中には気持ちが入っていて、楽しい旅行はゆらゆら動き、仕事の出張のカバンが静止している。(グループから笑いがあがる)


哲学研究者と考える「魂がふるえるってどういうこと?」

dear Me 鑑賞プログラムの様子 Photo: Yukiko Koshima

展覧会を鑑賞した後、すべてのグループでひとつの部屋に集まり、哲学研究の山森裕毅さん(大阪大学)とともに、参加した人たちが自由に意見を交換するセッションを行いました。

まずは、展覧会で見た、作品や全体的な印象や感想をそれぞれ考え、そして、改めて、この展覧会のキーワードの言葉について、問いかけます。

魂って、なんだろう?たましいがふるえる、ってどういうことだろう?

子どもたちは、自分の考えたことをワークシートに書き、その後、隣の人同士で話し合い、最後は、皆にそれぞれの感じたことや考えを共有しました。

Photo: Yukiko Koshima

子どもたちの言葉より

・ひもは人生。(ひもの起点が壁の内側から始まっている発見から)つづいている人生のよう。

・赤は悲しいとき、黒は嫌なとき。気持ちの変化を色で表しているのかな。

・ひもが魂でいろいろな色の魂がある。

・作品の、最初から最後までが人生。

・どんと、ふるえた。

参加した子どもや若者、またそれを見ていた保護者やファシリテーターの大人はどのような発見があったのでしょうか。 ここでは、一部の声を紹介します。


参加者の声

子どもが今回体調不良ながらも楽しく鑑賞できたのは、作品の素晴らしさはさることながら、一緒に回っていただいた大人の皆様が子どもたちの気持ちや考えを聞いてくださったり、「その発想、素敵ね」と認めてくださったところにもあったと思います。

その経験は子どもの自己肯定、自信にも繋がり、子どもたちの自由な創造に貢献するものだと思いました。
うちの息子については、興味のある美術鑑賞を通して、ちょっと苦手な「集団」の中に入っていく良い経験にもなりました。本当にありがとうございました。

参加したお子さんの保護者

見たりなかったので、美術館をもう一度見て回っていました!美術館って、結構楽しいんだなって感じたので友達にも言っときます。美術館ははじめてでしたが、とても楽しむことができました。色んな作品を見て、作者がどんな人なのかを想像したり、作品に込められた思いなども同時に楽しめ、良い一日になりました!

参加者(18歳)

忘れられない一日になりました!小さいころからこういった芸術に身近に触れることは大切ですね。自分は、身軽に一人で観に行きますが、子どもと一緒も良いなと今回発見しました。
また鑑賞後に皆で感想や意見を言い合う場も素敵でした。日本の子には、とても大切な経験だと思います。素晴らしい企画をありがとうございました。

7歳(小学2年)のお子さんの保護者

美術館には、息子が2歳頃から様々な企画展に連れ出していますが、今回は改めて初めて1人でじっくりアート鑑賞をする大変貴重な経験をさせて頂き感謝の気持ちで一杯です。塩田千春展も私は何度も足を運んでいて、このワークショップに必ず息子を参加させたい!という事で実現できて嬉しい限りです。
まだ小学一年生。一体どんな事を感じるんだろうと期待していましたが、鑑賞後、息子の言葉は、「船から血が噴き出してる」。赤い糸が血管の様に感じ噴き出ている感じがしたんだなぁと思うと、ますます子供の感受性や想像力を限りなく広げさせてあげたい。もっともっと世界と繋がって、あらゆる人達と繋がっていって欲しいと心から感じました。

「塩田さんはガンで病気なのにこんな作品作ったり病気を克服する力があるなんて凄いね」と息子はすっかりアートから様々な事を学んだようです。またこの様な機会がありましたら、参加させて頂きたいと思います。(展覧会の経験から)先日、息子の初めての自由研究が完成しました。息子らしい、ハートのこもった作品になり、大変嬉しく思います。

6歳(小学1年)のお子さんの保護者

大人も子どもも気持ちがあれば初めての人とでも一緒に鑑賞できる感覚や、子どもの大きくて深い想像力を近くで体験し、とても良い時間を過ごすことができました。

ファシリテーションスタッフ

子どもと大人が同じメンバーとして対等な立場で交流している雰囲気が面白かったです。直接のやりとりではなくても、同じ作品に対し別な意見が出たことを伝えることで、違う意見や見方をお互い楽しんでいたように思います。何気ない言葉を拾っておくことが本当に大事だなと感じました。

ファシリテーションスタッフ

鑑賞では、沢山のユニークな言葉が飛び出し、そのひとつひとつは、それぞれの過ごしてきた日々や体験からのひらめきの呼応として何気なくつぶやかれた言葉でしたが、時に大人の想像を飛び越えてハッとさせられる瞬間もありました。
人混みが苦手なお子さんがいて、始まる前はとても静かに緊張した面持ちでしたが、展示室に入った途端、まるでダンスを踊るように、くるくると自由に色々な角度で作品を鑑賞する姿がありました。作品を前に、心から楽しそうにする様子は、自分の「好き」や「心地よさ」を言葉ではなく身体全体で感じ、アートを媒介してコミュニケーションをしているようで、とても感動しました。

AITスタッフ
プロフィール
  • 山森 裕毅(大阪大学COデザイン・センター特任講師)
    哲学者・記号論研究者。大阪大学人間科学研究科基礎人間学専攻修了。看護専門学校やグループホームでの勤務を経て、2017年より現職。都市の路上に愛着を感じながら、人や物事が移り変わり変化する仕組みに関心を持つ。北海道浦河町にある「ベてるの家」とつながりの深いコミュニティスペース「ベてぶくろ」にて定期的に哲学カフェを開催し、色々な背景を持つ人々が集う場づくりをしている。
  • 訪問先 森美術館「塩田千春展:魂がふるえる」について
    会期 2019年6月20日(木)~ 10月27日(日)
    会場 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
    主催  森美術館
    協賛 株式会社大林組、株式会社資生堂、thyssenkrupp Elevator、トヨタ自動車株式会社、サムソナイト・ジャパン株式会社、株式会社 トゥミ ジャパン、TRUNK(HOTEL)
    企画  片岡真実(森美術館副館長 兼 チーフ・キュレーター)