Ikuyoshi Mukaiyaji talks about the power of children’s research and 13 principles for not stifling the unique world of the child.

The community activity centre ‘Bethel House’ was established in the town of Urakawa, Hokkaido, by people with mental disorders and other problems and volunteers from the town. It promotes ‘research on people with mental disorders and depression’, in which people with mental disorders and depression study as their own ‘experience experts’, think together with their peers about how to deal with the difficulties and problems of life, and support each other together.

They open up their difficulties and problems and ‘research’ them by themselves and their peers. Its activities have spread to a variety of developments, such as party research in the family and party research among business people. In this issue, Ikuyoshi Mukaiyachi, a founding member of Bethel House, talks about the possibilities of ‘children’s party research’, in which children think for themselves and engage in dialogue within their families.

(日本語)

子どもたちの見えている世界

 長男の孫が3歳の時のことである。食事のために入ったレストランの前の生け垣の方を見て「恐竜の赤ちゃんがいるよ。」と、声を出したことがある。私は、それを聞いて「探検にいこう!」と、孫の手を引きながら、ワクワクしながら茂みをのぞいた。

すると、孫は、生け垣の前に敷き詰められている白い玉砂利を見て、「じいじ、これ、恐竜の卵だよ!」と言って、触りはじめた。それを聞いて、私も「はじめて見たよ、恐竜の卵!」といって盛り上がった。

私には、本当に孫には恐竜が見えているような気がした。


「研究」というテーブルにのせてみる

 毎月、色々な家族同士がオンライン上で集い、子育てや親子関係、パートナーとの間の話題をテーマに自由に語らい研究する「当事者研究」の集いが盛り上がっている。そこに集まってくる子育てや家族の苦労をめぐる情報の多様性と、知恵と経験の交流は、新しい知のありかたを示唆しているようで面白い。その中で、ハッとさせられるのが、先に紹介したような子どもの持つ五感のユニークさと発想の面白さである。

 先日、そのネットワークに参加している一人のお母さんから、「やちさん、うちの子、すごいよ!驚いた。」とLINEで情報提供があった。連絡をくれたお母さんの家族には、それぞれの日常の苦労を出し合い、ワイワイと話し合い知恵を出し合い研究する「対話文化」が根付いている。それは、どんな些細な事でも、「研究」というテーブルに載せて、みんながワイワイと話し合う習慣である。

 次のできごとは、そんな家族の中で起きた日常の一コマである。

末っ子の女の子(小学校低学年)が、以前に学校の教室であった友達との間の嫌なできごとをついつい思い出してしまって辛くなり、登校を渋るという「不登校状態」になっていた。

そこで、そのお母さんが子どもとお風呂に入りながら、一緒にワイワイと「苦労の思い出し現象」の研究をした。このあたりが研究力のある家族の面白さである。そこでお母さんが子どもに伝えた情報が、「過去の苦労ではなく、今の楽しさに目を向けると楽になる」という、今までの研究仲間の大切な経験、いわゆる「先行研究」だった。

するとその子は、早速、学校で“実験”に取り組んだ。実験の内容は、お母さんから聞いたことを、自分でも試してみることだった。
結果は大成功で、驚いたのは、自分にとって“嫌な子”が教室に入ってきても、「今日は好きな子と遊べた」、「友達とケンカをしたけどすぐに仲直りができた」、「隣のクラスで遊べた」など「楽しいこと」を15個も見つけて、意気揚々と帰ってきたことだった。

そして、お母さんがその実験結果に驚いて、私に連絡をくれたのだった。
その後がもっと面白い。お母さんが子どもに「すごいね。」と言うと、「当事者研究を知らなかったら、ただ困っていただけ。」と、さらりと言ってのけたのである。

そこには、大人にありがちな揺らぎや「頭ではわかっているけど、気持ちがついていかない。」というグズグズな感じは微塵もない。あっぱれである。


子どもの研究力と「苦労」への対応力が吹き起こす、新しい風

 最近も、オンラインで「不登校」の男の子(中学1年生)の研究発表を聴く機会があった。その子の決め台詞、「学校を辞めるか、生きるのをやめるか、それとも研究するか」の発想の切れ味と、その語呂合わせもユニークで面白かった。それを聴いていた複数の大人たちから「実に素晴らしい研究!」という賞賛が寄せられた。

私からも男の子に、「不登校というテーマには、いじめの問題だけではなく、社会の現実もすべてつながっている、深く、広いテーマなので、今後とも研究を続けてください。」というエールを送った。

 その後、その中学生のお母さんと話す機会があった。すると、「あの後、息子が急に学校へ行くって登校したんですよ。帰って来て、今日は普通の日をおくったよ、って言うんです。」と笑いながら話してくれた。
私も、それを聞いて、想像もしなかった展開に「面白いですね。誰も学校に行かせようとしていないのにね。」と言葉を返した。

 当事者研究では、「自分の苦労に自信が出てくる」という言葉を使うが、自尊心の高まりは、事態が何も変わっていなくても、人に勇気を与えるものなのだ。ここで気づかされたことがある。もしかしたら、子どもの方が大人よりもずっと現実の苦労への対応力があるのではないか、ということである。

 大人は、長く生きている分、たくさんの“ノイズ”を抱え込み、「常識」や人の評価という縛りをかかえ発想の転換や行動を変えるのが難しい。しかし、子どもは、人間関係を含めた環境の影響を受けやすいという脆弱性を抱えているが、経験の少なさと、子どもが持っているファンタジーの世界が幸いし、「研究的思考」を身につけることにより、生きやすい発想や行動を選択できる可能性が高まるのかもしれない

 このような子どものもつ対応力、可塑性は、当事者研究のもつ研究力をもっとも活かせる土壌を、子ども自身が既にもっていることを示している。今年(執筆当時の2021年)は、子どもの当事者研究をまとめた冊子づくりのプランも持ち上がっている(*)。子どもの研究力が、コロナ禍にあって閉塞した状況にある社会に新しい風を吹き込むような予感がする。

 ちなみに、当事者研究を続けている家族に、子どもと向き合う際の大切にすべきポイントを子どもの意見も聞きながらまとめて、出来上がったのが次の「13の理念」である。この理念は、子どもの持つユニークな世界を押しつぶさないための親(大人)のわきまえのようなものである。参考までに紹介したい。

テキスト:向谷地 生良


子どもと向き合う際に、大切にすべきポイント


1. 親は自分の失敗や、情けない話を子どもにはなす。

2. 子どもが苦労の主人公になるように。親が心配して管理する生活ではなく。

3. 子どもの苦労を奪わない。

4. 問題は解決するより活かせ。

5. ユーモアの大切さ。

6. 深刻になりすぎない。けれど、軽くも扱わない。

7. 自由に始めて、自由に終わる。

8. 子どもを変えようとしない。ジャッジしない。

9. 子どもから学ぶ。まず、子どもの話をきく。

10. 自分(親)の言葉や振る舞いを変える。

11. 親子は対等、本音で対話する。

12. 子どもの主観を重視する。

13.「人」と「こと(問題)」をわける。


 

*追記
子ども当事者研究の書籍は、2022年3月に発売されました。

子ども当事者研究 わたしの心の街には おこるちゃんがいる

●内容 (株式会社コトノネ生活のウェブサイトより)『コトノネ』39号で特集、反響のあった「子ども当事者研究」を書籍化! 子どもたちが日々ぶつかる悩みや困りごとを、自ら「研究」。その研究成果を、イラスト付きで紹介します。 見つけた「自分の助け方」は、子ども自身はもちろん、まわりの人を、そして世界も救う?! ままならないことだらけの世界で生きるすべての人に読んでほしい「子ども当事者研究」の世界へ、ようこそ!

発行日:2022年3月11日
頁数:116ページ
判型:A5
ISBN:978-4-907140-41-0

(日本語) プロフィール
  • (日本語) 向谷地 生良(むかいやち いくよし)ソーシャルワーカー(浦河べてるの家/北海道医療大学)
    (日本語) 1955年青森県生まれ。北星学園大学文学部社会福祉学科卒業。1978年、北海道浦河町の病院に精神科専属のソーシャルワーカーとして赴任。1984年、地域活動拠点「浦河べてるの家」を設立。理事長、アドバイザーとして活動している。精神障害を持つ当事者が自らの症状を含めた生活上の出来事を研究・考察する「当事者研究」を提唱、メンバーと共に普及活動を行っている。主な著書に、『安心して絶望できる人生』(NHK出版、2006年)、『技法以前―べてるの家のつくりかた (シリーズ ケアをひらく)』(医学書院、2009年)、『精神障害と教会 教会が教会であるために』(いのちのことば社、2015年)などがある。
    http://bethel-net.jp